Freedom within the Walls




それは昨日、お城に着いて直ぐのことだった。


「そうだ、クレア。ゆっくりと湯に浸かるといい」


そう言って、浴場に案内してくれた。


「ありがとうございます」
「俺はここで待っている」
「え? でも……」
「俺の事は気にしなくていい」


コルクはハンカチを取り出すと、剣の鞘を丁寧に拭きはじめた。


「これには随分と時間がかかるからな」
「大切なものなんですね」
「父と兄の形見なんだ」
「私……すみませ──」
「気にする事はない。二人はいつも俺の心と共にあるからな」


どう答えたらいいのか、俯いていたら“気にしなくていい”と頭を撫でられた。
私は一礼して、中へ入った。


「湯加減、いかが?」


そこには綺麗な人が一人、既に湯に浸かっていた。


「えと……はい、丁度いいです」
「ふふ、今日は青竹の香りとのことですわ」


彼女は“ローレン”と言った。
そして、“人質”だと。


「彼、優しいわよ」
「え?」
「コルクのことよ。私含めて、みんな彼が大好きなの。あなたもきっと彼を気に入るわ」


また、食堂でも──


「コルク、試作品が出来たんだ。味見を頼む!」
「凄く美味いぞ、ルズ! もう1つ、彼女にも貰っていいか?」
「もちろんです!」


“ルズ”……
彼もまた“人質”で……
他にもお城に何人もの“人質”がいた。

……“人質”なのに……
みんな生き生きとしてる──

そう、目の前の少年少女も……


「コルク、その人誰?」
「クレアって言うんだ。仲良く頼むぞ」


そう言いながら、彼は二人の頭を撫でる。


「もしかして、デート中?」
「そう見えるか?」
「見える!」
「そんじゃ、邪魔すんなよな?」


子供達と無邪気に笑う姿に、顔が綻ぶ。


「待たせたな、クレア」
「……ううん」
「今はデートらしいぞ。折角だ、好きな土産を選ぶといい」


私は“人質”なのに……
お土産まで貰ってしまった。


「いらない、か。ならば俺のイチオシの林檎飴にしよう」


2つ林檎飴を買って、お城に戻った。
お城に着くと、彼は慌ただしくどこかへ行ってしまった。

──お城も街も全部、塀の中。
私のいた所とは全然違う世界。


「ねえ、コルク。あなたは、“人質”をみんなここに住まわせているの?」
「……そうだ。俺の目の届く範囲内に置いている」


そう、彼は笑顔で答えた。


.
2/4ページ
スキ