Moon and Apple Candy




「………………っ」


私は部屋を飛び出し、お城の門の前に来ていた。
ここに来たのは、二度目だった。

震える手を門に伸ばす。
その“意味”を知っているから……指先が戸惑う。


「コルティックの元へ行くのか?」
「……誰?」
「そうか。“受験生”までは私の事を知らないのだったな」

 
そう言いながら、男は私の髪に触れた。
月明かりに照らされると男の顔がハッキリと見えた。


「ディオス。以後、お見知り置きを──」
「ディオス……さ……ま?」


身体中に鳥肌が立った。
やがてその身体は“何か”を感じ……ガタガタと小刻みに震えだした。


「いい反応だ。なぁ、コルティック?」


振り向いた瞬間、手を引かれ抱き締められた。


「……コルク……」
「遅くなって悪いな」
「レオン……こいつは“人質”だ」
「随分、懐いてるようだが?」
「どうだかな」


言いながらコルクは剣を構える。


「そんな古ぼけた剣で殺るのか?」
「古い、新しいじゃない」
「……ああ、敵討ちか。それなら此方にも同じ理由もあるな」
「母のことを言っているのか?」
「そうだ」
「……どの口がほざいてやがる!」


コルクがディオス様の胸ぐらを掴む。


「短気な奴だ。まだまだ餓鬼のようだな」


そう言って、ディオス様はコルクの手を振り払う。


「ふ……ざけんな──!」


激しく剣と剣がぶつかり合う。
互いに一歩も引かない、といった様子だった。

けれどコルクは勢いと復讐心で力が入っているのか、明らかに息が上がっている。
逆にディオス様は余裕、といった様子で……


「お前の思いはこんなものか。豆粒だな」
「貴様!」


コルクの剣を余裕でかわしていたディオス様だったが、一瞬足元がふらついた。
その時、“何か”がディオス様の服から落ちた。

──粉?……薬?
ハッとして、二人を見る。

すると、コルクが膝をつくディオス様に剣を振りかざすところだった。


「だ……駄目──」

 
私は思わず手で顔を覆った。

ドサ……っという音と共に呻き声が聞こえ、ゆっくりと手をどかす。


「年には勝てないようだな……いや、思いの強さ……かも知れないけど」
「…………かはっ……」


ディオス様は力なく倒れた。
倒れた彼の足から多く出血していた。

コルクは暫く様子を見ていたが、やがて自らの服を千切り包帯のようにあてがった。


「……これでお前は……逃げられない。明日の朝、俺の部下が到着するまで……苦痛と共に懺悔でもしてるんだな」
「……殺さない……のか?」
「…………今は、な。見せもんじゃないんだよ、殺しってのは!」


コルクの言葉にディオス様は項垂れた。


「行こう、クレア」
「は、はい……」


私の手を掴むコルクの手は震えていた。

迷いや葛藤があることを改めて感じた。
それでも……コルクがディオス様と同じにならなくて良かったと……そう思わずにはいられなかった。


「──テメェだけは許さねぇ!」


その声と男の悲鳴だけが聞こえた──





to be Continued...
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