氷川 愛流

愛なんか要らない──
だから僕を欲するな。


「……愛なんか要らない」


告白を断る時のお決まり文句。
だからか、女子は噂をする。
僕が響鬼に気があるんじゃないかって。
ある意味、当たっているのかもしれないな。

彼は少なくとも、女子よりも一緒にいて落ち着くし楽しい存在。
それに響鬼と一緒なら、女子共は群がってこない。





〈Trauma of the Love〉





「愛流。お前、いい加減に口隠すのやめないか?」


響鬼が言った。


「……それは出来ない」
「まだ引きずってるんだな」


その言葉に全身が震える。


「おいおい……そんなにトラウマなのか」
「あ、あぁ……」
「なら、上消しすればいい。黒は白でも消せるんだからな」
「……無理だ」
「カッコいい面してるクセに」


と、響鬼は口元を隠していた服を下に引っ張る。


「や……やめ──」
「ほら。汚れてなんかいない、安心しなよ」
「──っ」


そっと響鬼の人差し指が唇に触れる。


彼女も……よくそうやって僕の唇に触れてきた。
優しくて温かくて、心地よくて……幸せだったのに──


「愛流」


僕を呼ぶ彼女の優しい声を今でも思い出せるのに。

同時にソレを一瞬で打ち砕くのも彼女……


「──おい、大丈夫か?」


響鬼の指がそっと離れた。


「…………大丈夫……」
「強がりも程々にしなよ。せめて、オレといる時だけはさ」
「お、おう……」


ほら、やっぱり“愛”なんか要らない。
──むしろない方が落ち着くんだ。



Trauma of the Loveー愛的トラウマー





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