小瀬 昊太郎

「こぉちゃん」
「だ~れじゃい、先輩を“ちゃん”で呼ぶヤツ……って、お前しかいないよな」


なつっこい後輩に、もうため息も出尽くした。


「先輩、その鞄……新作?」
「おうよ! 昨日、買ったぞ」
「だから昨日は見掛けなかったんだ」


オイラはウサギのキャラクター“ウサギっちょ”命。
コイツも多少は詳しいみたいで、そこから絡んでくるようになった。






〈Fragment of spirit〉





「よぉ。今日は休みかと思ったぞ」
「うん……」
「元気ねーな! どうかしたのか?」
「……大丈夫」
「ど~こがだよ」


何でだろ……
こいつが「こぉちゃん」って来ないと変な感じだ。


「どっか痛いのか?」
 

彼女は首を横に降る。


「腹へったのか? ダチとケンカしたか?」


どうやら全部、違うらしい。


「まさか、お前……限定のウサギっちょぬいぐるみ買えなかったんじゃ──」
「違います……」


暫く隣で背中をさする。
オイラ、やっぱ……ガキだな……
こういう時、なんて声掛けたらいいのか分かんねーや……


「……ありがとう……」
「なんだよ、それ。悔しいけど、なんもしてないんだけど」
「こぉちゃん、ずっと傍にいてくれたから……」


よく分かんねーけど、彼女は笑った。
──いつもの笑顔で。


「親とケンカしちゃって。家に帰りにくくて……」
「なんだ。そんなことか」
「だよね。こぉちゃんなら、そう言うと思ってた」
「やっと、らしくなってきたじゃんよ! って、こぉちゃんじゃなーい! 先輩って呼べよ、先輩って!」


彼女がまた笑って、オイラもつられて笑った。





Fragment of spiritー元気の欠片ー



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