Prolog





──森の中、教会の鐘の音が響き渡る──


「神よ、この罪深きこの僕を許してくれますか?」


告解室で跪く一人の男。
その男がゆっくりと顔を上げる──


「許したるで……なぁ~んでも許したる」
「……はい?」
「生きてりゃちゃんとやり直せるし、償えるんや! ま、愚痴ぐち言ってんじゃねぇってこったで」


そう言って、扉の中から派手な髪色の少年が現れた。


「ちょ、神父様!?……出てきちゃ駄目でしょ! 懺悔中──」
「かまへん、かまへん……ってか、これ以上聞くんしんどいんやって」


少年は笑顔で言った。


「もう最後まで聞いてあげなさいよ、オルフェ」
「ウジウジねちねちは、苦手やっちゅーねん。カノンが聞いてやったらええやろ」


オルフェが扉の方を見る。
そこにはカノンと呼ばれたシスターが立っていた。


「カノよ。仕事中はそっちで呼ばないで」
「……お前が先に呼んだんだろ。俺だって仕事中はオーフェやで」


オルフェとカノンは火花を散らす。


「仕事中って、真面目にやってないじゃない」
「これが俺流や。文句あるなら──」
「あの、お二人様──」
「外野は黙ってろや!」


二人の声が重なる。


「す、すみません……」
「あ……やっちまった……」


オルフェの頬を汗が伝い落ちる。


✕  ✕  ✕


庭。
頭にこぶを二つ付けたオルフェが大きな杉の木の下、寝転がっている。


「……いつになったら、真面目に仕事すんの?」


と、カノンがオルフェの顔を覗き込む。


「仕方ないやろ。愚痴聞くの苦手なんやし」
「少しの我慢じゃない。見習い卒業したら好きにしたらいいでしょ」
「……はぁ。簡単に言うなや」
「ま、オルフェの良い所なんだけどね」
「そりゃどーも」


会話が途絶えると、カノンはオルフェに背を向けて座る。
伸びをしたオルフェとカノンの指が触れた。


「……あの、さ……俺が見習い卒業したら──」


つむじ風に葉が舞い上がる。


「ん? なに?」
「俺と──」


冷ややかな風も混ざり、花々が枯れていく──

オルフェが異変に気付き顔を上げる。


「な──ッ!!」


目の前に、ぐったりとしたカノン。
その彼女を抱きかかえる、不気味な男がいた。


「……誰や、お前」
「──そうだね……“アヤメ”、とでも名乗っておこうか……」









END.
(2022.05.19)
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