Doll Ⅱ




……………
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しばらく本を夢中で読んでいたら、どこから声が聞こえた。私以外にも誰かいるのかなと本を閉じて棚に戻してから、声のした方に向かう。


が、行かなきゃ良かった!
そこには、いちゃついてるカップルがいただけ。ここは本を読む場所でしょ。最低。カップルを睨んでいたら、男子の方と目が合った。



「……あっ!」


………あの人。新学期に桜の木の下で泣いていた人だ。そんな私の声に気づいたのか、女子の方もこちらに振り向き、声を上げる。



「嫌だ!見てる人がいる。ミカド、他の場所に行こう!」

こっちは好きで見ていたんじゃないわよ!ここでやろうとしてるそっちが悪いんじゃない。私は無言でその場から離れようとした。だが。



「待って。アリスちゃん」


何故か男子に呼び止められた。今、名前呼ばれたような…。それから彼は一緒にいる女の子に謝る。



「ごめんねー。俺、用事出来たからまた今度」

「えー」

「夜、連絡するからさ」


そう言って、彼は一緒にいた女の子にキスした。何なの、この人。泣いていた時と雰囲気が全然違うんだけど。軽い上に、チャラい。呆れながら、その場から離れようとした。



「待ってよ、アリスちゃん」


いつの間にかその人が私の腕を掴んでいた。振りほどこうとしてもガッチリ掴まれて離せない。



「な、何ですか!離して下さい」

「ダーメ。離したら、逃げるでしょ?」


当たり前じゃない。逃げないと危ないし。この人に近づいてはいけない。てか、力が強くて逃げられない!誰か助けて。



「ったく、やっぱりここにいた。おい、アリス!」


そこへハルクが現れた。
助かった!さっきはデリカシーないなんて言ってごめん。



「ハルク。この人、何とかして…」


ハルクに助けてもらおうと訴えるが、何故か呆れていた。



「ミカド。お前、女の趣味変えたのか?」

「いやいや、変わってないよ。むしろ、女の子は大好きだから。みーんな可愛いし」


え、二人は知り合いなの?二人の会話についていけず、私は置いてけぼり。



「アリス。お前、何で間抜けた顔してんだよ」

「いや、だって…」

「そいつ。オレらと同じクラスのミカド。覚えてねェのかよ」


そうだったっけ?
知らない。まだ全員の顔は覚えてないし、それどころじゃなかったし。特に男子は知り合い以外まったくわからない。



「始業式の日、教室入った時にエンジュの横にいたぜ、ミカドも」

「…え、いた?エンジュは覚えてるけど」

「エンジュはインパクト強いからねー。あいつには勝てないよ」

「いや、お前も負けてねェから」

「ハルクにも言われたくないなー。遊んでる女の子達から、お前のこと紹介しろってすげー言われるんだよ。今度、紹介しようか?」

「いらねェよ。女に困ってねーし」


何なの、この会話。遊んでる女の子達?紹介しようか?女には困ってねー?モテ男達の会話的な??

……。私には関係ないからいいか。



「アリスちゃん。俺、君とは仲良くなりたいなー。前から気になってたんだよね」

「は?」


仲良くなりたいなーって言われても、私は仲良くなりたくない。この人といたら、絶対にいざこざに巻き込まれそうだし。軽くてチャラい人は苦手だ。



「ご遠慮します。私、女の子の友達が欲しいので、女の子の敵になりそうな人はちょっと…」

「正直だねー、アリスちゃんは」

「ミカド。コイツ、マジで女のダチ作るのに必死だから無駄だぜ」


私の反応は予想外だったのだろう。ミカドは最初目を丸くしていたが、大声で笑い出した。



「あははは。面白いね、アリスちゃん。余計に気に入っちゃったよ」

「面白い??」

「うん。面白い。あー、久しぶりにこんな笑っちゃったー!さて、教室に戻ろうか?二人共」


図書室を出て、少し先を歩いてくミカド。私も後に続こうと歩き出す。すると、横にいたハルクが話しかけてきた。



「お前、ミカドには気をつけた方がいいぞ」

「何で?」

「アイツ、女には見境ないから。それに…」

「それに何??」

「何でもねェ」


忠告された。
ハルクに言われなくても、ミカドに近づく気はない。女の子には困ってなさそうだし、向こうも私に近づいてくることもないだろうし。

この時の私は、そんなことを考えていた。その油断がのちにあの事件を招くことになるとは思いもせずに。


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