Nepenthes rafflesiana
放課後。
帰ろうと廊下を歩いていたら、リゼルの声が聞こえた。何やら叫んでいる。一体、どこから?
どうやら声は保健室からだった。
「リゼル?何して…」
ドアを開けて、中を見る。すると、リゼルが手前にあるベッドに押し倒されていた。しかも、相手は女の子。
「アリス…」
「ごめん。リゼルって、対象は女の子だったんだね…」
「違う!違うから!勝手にコイツが…」
「えー!リゼルだって、嬉しそうにしてたじゃん!」
「そうなんだ。ごめんね?邪魔して…」
「だから、違っ…」
「アリス。そこで何騒いで…」
そこへハルクがおれの後ろから現れた。同じようにベッドで、押し倒されているリゼルを見て、一瞬、言葉を失ったが、それをニヤリと笑う。
「お前、そっちに興味あったんだな。あー、そっかそっか。アリス、邪魔しちゃ悪いから出ようぜ」
「邪魔。そうだよね…」
ハルクに手を取られ、保健室を出ようとした。
「違う!女じゃなくて、男が好きに決まってんだろ!」
「え、そうなの?」
「だから、コイツを離してくれよ!頼むから」
「わ、わかった…」
取りあえずリゼルとその女の子を引き離す。リゼルはその子から離れると安心したのか、息をつく。
「…助かった」
「せっかく面白いから、そのままにしてやろうと思ったのに」
「てめー!」
「2人共、ケンカしない!…それで、きみは何でリゼルにあんなことしたの?」
ベッドの上に座ったまま、その子は俯いたまま動かない。
「…タイプだったから、つい」
小さく聞こえた声。その子はそう口にした。
「うーん、リゼルが好みだったってこと?」
「そう」
「いくらきみの好きなタイプだからって、合意もなしにしたらダメだよ。それにこういうことしてたら、中には危ない人もいるんだから!もっと自分を大事にして。きみは女の子なんだから」
「……」
言い過ぎちゃったかな?
でも、この子は女の子なんだし、ちゃんと言っておいた方がいいよね。男よりも女の子の方がリスク高いんだから。
「きみ。……ん?」
声をかけようとしたら、目の前にいる子が顔を上げて、おれの手を掴んでいた。
「そんなこと言ってくれたヤツ、初めて!好き!きみがいい。ヤろうよ!」
「へっ?いや、ちょっと待って!おれの話、聞いてた!?」
「聞いてた、聞いてた!相手してくれるんでしょ!!」
「違う!!」
そんなこと言ってないし。この子、おれの話、まったく聞いてなかった!!
この子、力が強くない?女の子なのに…。ハルク並では?
……って、いつの間にかおれ、ベッドに押し倒されてるし!Yシャツのボタンも千切られたし!脱がされそうだし!完全に貞操の危機!?
「きみ、ちょっと待って。おれは…!」
「大丈夫!一度ヤれば、病みつきになっちゃうから」
「流石に好きじゃない相手とは、そういうの出来ないから!」
「ヤっちゃえば、好きになるよ!」
「ならないから!話を聞いて!!」
「うん、うん!大丈夫。怖いのは最初だけだから!」
会話が成り立たない!今までここまで話が通じない人はいなかったよ!!
すると、今までずっと黙っていたハルクとリゼルが声を上げる。
「「はあ!?」」
「さっきから黙って聞いてれば、バカなこと言い出しやがって!絶対許さねー!」
「何がヤれば、好きになんだよ!そんなんで結ばれても好きになるわけねーだろ!」
息が合ったコンビネーションで2人がその子からおれを引き離してくれた。
助かった…。本当にヤバかったし。
「大丈夫か?アリス…」
「な、何とか…。ありがとう」
でも、体は無事だけど、Yシャツがひどいことになってる。ボタンが全部取れちゃったし。下にTシャツ着てるから、平気だけどさ。
「何?2人も仲間に入りたいの!?じゃあ、4人でヤろうか!」
「「「いやああああ!!」」」
おれ達、3人が恐怖で叫び声を上げた。すると、保健室のドアが開く。
「一体、何の騒ぎです?」
「カルロ先生!」
良かった。大人が来てくれた。おれはカルロ先生に駆け寄る。
「どうしました?アリスくん」
「先生、来てくれてありがとう!もうおれ、ダメかと思った…」
泣きそうになるおれにカルロ先生は、優しく微笑んでくれて、おれの頭を撫でてくれた。
女神だ…。
「もう大丈夫ですよ。それにしても彼女は懲りませんね。また騒ぎを起こして…」
「また?」
「前にも彼女、別の生徒を襲ったんです。前回も未遂でしたが…」
あの子、前にも同じことしたの!?本当に誰でもいいってこと。
女の子は頬を膨らませて、カルロ先生を睨む。てか、全然反省してない…。
「また邪魔しに来た。たまには見逃してくれてもいいじゃん。頭、固すぎ」
「ダメです。ほら、もう下校の時間ですよ。皆さんは、早く帰ってくださいね。あ、あなたはお話がありますので、職員室に行きますよ」
カルロ先生はその子の腕を掴むと、さっさと保健室を出て行った。
「嵐が去った…」
「アイツ、マジでヤバいな…」
「てか、アレが戻って来る前に帰んねェと。また襲われるぞ」
顔を見合わせたおれ達は、無言で自分の鞄を持ち、保健室からすばやく出た。
【END】
(2022.02.11)
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