October daphne




夜。
風呂から上がり、アリスの部屋を通った時、明かりが漏れていた。

確か、夕飯終わってから課題やるとか言って、部屋に戻ったはずだ。
あれから時間は経って、今は0時を回る少し前。流石に課題は終わっているだろう。様子を見ようと、部屋の前に立つ。



「アリス」


ドアをノックしてみるが、いつもならば返事があるのにない。仕方なくドアを開けると、部屋は散らかっていた。大方、何かを探していたんだろう。その中心で部屋を散らかした張本人が寝ていた。どおりで返事がないわけだ…。

課題は終わったみたいで、机の上だけは片づいていた。というか、何を探して力尽きたんだ、コイツ。たまにワケわからないこと始めるからな。



「アリス、起きろ」

「………ん」


肩を軽く揺らすと、目をこすりながら、アリスが起きる。しばしあたしを見てから、



「あれ?ハルク。……おれ、寝てたんだ…」

「寝るなら、ベッドで寝ろよ」

「うん。でも、部屋片さないと」


起き上がって片そうとするが、起きたばかりでまだ体が覚醒してないのだろう。フラフラしていた。おい、見てるこっちがハラハラする!見かねて止めた。



「片しといてやるから、お前は寝な」

「うん…」


半分寝てるだろ、コイツ。すると、アリスがあたしの方に倒れ込んで来る。



「アリ……ってて」


慌てて支えたけれど、体格差のせいもあって、あたしは床に寝転ぶハメになった。しかも、アリスは起きない上に顔があたしの胸に乗っかっている。何とか起き上がらせようとするが、寝てるアリスは眠ったまま、ビクともしない。

何であたしに抱きついて寝るんだよ。抱き枕じゃねェぞ。ベッドで寝ろって言ってんのに…。この状態じゃあ、部屋も片せらんないだろ。

それなのに寝ている本人は幸せそうに眠っていた。



「もう食べられない…」


夢の中でも何か食ってんのかよ。相変わらず食い意地が張ってんな。その寝言につい笑ってしまう。



「…ったく。何でいつもコイツに振り回されてんだろうな」


元気でくるくる表情変えて、悩みなんてまったくなさそうに見えるけど、時折弱くなる。弱くなっている時もそれを見せないように笑うから、たまに判断に迷う時がある。

きっとそうして隠すことで、心配させないようにしてきたんだろう。
いつもは素直なのに、変なとこで強情だからな。



「…から」


アリスが何かを呟いた。ん?



「おれが弱かったから、きみを守れなかった…」

「……」


さっきまで笑っていたくせに今度は泣いてる。忙しいヤツだ。



「……ごめん。約束守れなくて……………リク」


妹を失ってから、アリスはずっと妹に謝っている。この言葉は妹には届くことはない、のに。

アリスが妹とどんな約束したかはわからない。知っているのは、アリスとリクだけ。

部外者であるあたしには、何もわからない。
でも、これだけはわかる。


アリス。
お前は弱くない。弱いヤツは自分を弱いなんて認めることが出来ないんだ。だから、虚勢で強く見せようとしてんだよ。そんなヤツら、沢山見てきた。
だから、お前は違う。

アリスの涙を指で拭う。もう泣くな。夢の中まで泣いてるのなら、前を見ろ。後ろばかり見ていたら、幸せに気づけなくなるから。



「それにお前にはあたしがついてる。だから、もう泣くな…」


どうかお前が笑える未来が早く訪れますように。そう願いながら、目を閉じた───。





【END】
(2022.01.26)
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