Aquilegia

アリスが去った後、残された二人は。



「アリスのこと、ありがとうな」

「何でてめえに礼を言われなきゃいけねーんだよ。アリスは別にお前の女じゃねぇだろ」

「確かに女じゃねェけど…!」


黙って睨み合う二人。
先に動いたのは、リゼルだった。



「……バカバカしい。てめえの顔なんか見てたら、ムカついて仕方ねー」

「オレもだよ。さっさと帰れ!リゼ公」

「言われなくても帰るに決まってんだろ!」


そう言うと、リゼルは背を向けて歩き出す。ハルクは思いっきりドアを閉めた。互いに考えていたのは同じこと。



((本当にいけ好かねぇヤツ…!))




















一時間後。
お風呂から上がり、着替えてからリビングに来た。

いつもならパパとママがいるはずなのに、二人の姿が見えない。今日は遅くなるって聞いてなかったはずなんだけど。
リビングには、ハルクしかいない。



「あれ?そういえば、パパとママは?」

「帰って来てねェよ。お前が帰って来る前に二人から連絡あったけど、今日は仕事が思ったより長引いたから帰れねーってさ」

「そうなんだ…」


セツナとラセンも今はうちにいないし。ということは、ハルクと二人!?気まずい。
いつもならそうは思わないけど、私、今日はやらかしてるし…。よし、もう寝よう。



「私、眠くなってきたから部屋で休むね!おやすみ…」


ハルクの返事も待たずに私は部屋に逃げた。
あのままリビングにいると、きっとハルクに理由を尋ねられそうだし。私、絶対上手く説明出来そうにないから。

うー、それにしても寒い。部屋の電気はつけないまま、暖房だけつけてすばやく自分のベッドに潜り込む。明日は日曜日だし、ゆっくり本でも読もう。

窓の外を見ると、雪は降り続いて、うっすらと積もり始めていた。
明日は雪かきしないとかな。そこまで積もらないといいけど…。


そこへ、ドアをノックする音が聞こえた。私以外に家にいるのは、ハルクだけだ。珍しい。いつもならノックなんてしないのに。



「…入ってもいいか?」

「うん…」


そう返事すると、ハルクは部屋に入って来て、ドアを閉めるとドアの前で立ったまま動かない。



「ハルク?」

「なあ。今日、この部屋で寝てもいいか?」

「…………はい?」


今、ハルクはなんて言った?この部屋で寝てもいいか?いやいや!何言ってるの?寒さでおかしくなったの!?どれくらい前から待ってたんだろう。



「ここ、私のベッドしかないし…」

「別に構わねェ」

「私が構うから!ハルク、ちゃんと部屋で寝なよ」

「眠れそうにないから、ここで寝んだよ。手は出さねェから安心しろ」

「安心出来るか!何でハルクと一緒に寝ないとなのよ!!ちょっと、ベッドに入って来ないで!」


そうこうしているうちにハルクが勝手に私のベッドに入って来た。聞いておいて、入って来るとかありえる!?ありえないわよ!一人用のベッドで二人で寝たら狭くなるじゃない。何で自分のベッドなのに、狭い思いをしないといけないのよ!

うっ、すぐ傍にハルクの顔があるし。近い!近い!見慣れてる顔なのに、何か意識してしまう。部屋が暗いから、顔が赤くなってるのはわからないだろうけど。

よし、ここは反対側を向こう。そしたら、顔は見なくて済むし。それに早く眠ればいい。

それかある程度時間が経ったら、部屋を出て、リビングに行こうかな。確か、予備の毛布や布団とかしまってあったはず。

あ、しまった。スマホは机の上に置いたんだった!仕方ない。ハルクが寝たら、移動することにしよう。





……。

静か過ぎる!!余計に眠れない。寝返りもうてないし。どうすれば…!

そんなこと考えていたら、突然、私の腰辺りにハルクの腕が回ってきた。しかも、引き寄せられてるし。必死に腕を引き剥がそうとするが、全然剥がれない。それどころか、ますます力を入れてくるんだけど。…くっ!ハルクの腕を剥がさないと、ベッドから降りれなくなる!



「ハルク。ちょっと…離して」

「離さねェ。離したら、お前は絶対ベッドから抜け出すつもりだろ」


げっ。私の考えが読まれてる!



「そ、そんなことは…」

「あるだろ。リビングで寝ようとか考えてただろ?行かせねェからな」

「リビングには行かないけど、トイレは行くかもしれないし」

「その時になったら離してやる」


何で!?くっつく意味がわからない!私達、恋人でもないのに、何故くっつかないといけないのよ。



「いいから離して!」

「そんな言うなら、離してもいいけど」

「本当!?」


すると、ハルクは私の耳元に口を寄せてくる。



「ああ。お前がこっち向いてくれるなら…」

「っ!!?」


ちょっとやめてよ。何で耳元で囁いたわけ!やっぱりハルクがおかしい!!熱あるんじゃないの!?



「ハルク、さっきから本当におかしいから!何かあったの?」

「……」

「ハルク?」


黙っちゃったけど、まさか寝たの?えー?まだ話の途中なのに!?



「……お前がいなくなったせい、だろ…」

「え…」

「いきなりオレの前からいなくなって、いくら電話かけても繋がらなくて…。知り合いに聞いても、誰もお前の居場所知らねェし。オレがどんな想いでずっとお前を待ってたか…」


こんな弱いハルク、初めて見た。今までに色々あったせいもあるんだろうけど。
いや、これは今日の私の行動が一番の原因なんだろうな。

腕の力が弱まってきたから、私はハルクの方に振り向く。そして、彼の頭を撫でた。



「よしよし。心配かけてごめんね」

「許さねェ」

「どうしたら、許してくれる?」


真っ直ぐに私を見る。しばし考えてから、ハルクが小さな声で呟く。



「ハグしてくれたらいいぜ」

「ハグ?何で…」

「いいから!」


何か怒ってない?ま、ハグくらいならいいか。私はハルクに抱きついた。こんなんでいいのかな?さて、そろそろ離れよう。

そう思って、体を離そうとした。
が、離れそうになったら、ハルクが離すまいと抵抗してくる!



「ちょっ…離し!」

「このまま寝ようぜ」

「いや、ちょっと!無理!離してってばー!」


ハルクは本当にそのまま寝てしまった。私は仕方なくハルクに抱きしめられながら、眠る羽目になった。本当に苦しかった!
あんなことは二度とごめんだー!





【END】
3/3ページ
スキ