Aquilegia

その日は寒い日だった。
夜から雪が降ると予報があった。なのに、私はここでずっと待っていた。

待ち人は来ない。来ないなら、何故私は待っているのだろう。
わからない。認めたくないだけなのかもしれない。きっと意地だけで待っているだけだ。

リクと交わした最後の約束を。



「…アリス?」


顔を上げると、リゼルが立っていた。



「リゼル…」

「お前、いつからここで待ってんだよ?」

「え?えっと、いつからだっけ?」


空が明るい時からいたのは覚えている。でも、今はもう真っ暗になっていた。



「オレが朝通った時からいただろ…」

「そうなの?」


リゼルが通ったことなど知らなかった。私はただボーっと待っていたから。来ることなどないとわかっているのに…。
こうして待っていれば、来てくれると思いたかったのかもしれない。



「で、いつまで待ってんだよ?」

「……」


リゼルが深いため息を吐く。すると、めんどくさそうに尋ねる。



「……アイツは知ってんのかよ?」

「アイツ?」


リゼルは誰のことを言っているのだろう。不思議に首を傾げていると、



「お前のいつも傍にいる喧しい野郎のことだよ!」

「ハルクのこと?ハルクは知らないよ。何も言わずに来たから」

「はあああ!?」


そんなに驚くことかな。
私だって、いつもハルクと一緒にいるわけじゃないんだから。



「お前、スマホ持ってんのか?」

「持ってはいるけど、電源は切ってるよ」

「スマホの意味ねーだろ!それ」

「あはは、そうかもね」


リゼルがもう完全に呆れていた。私自身も何やってんだろうとは思うし。



「もう今日は帰れよ、夜も遅ぇし」

「……そうだね。流石にこれ以上はパパ達も心配するだろうし」


ずっとここにいたせいか、体が冷たくて、上手く体が動かない。足を動かそうとしたのに、一歩踏み出したら、転びそうになった。



「大丈夫か!?」

「う、うん…。体が言うこときかなくて」


転びそうになった私をリゼルが掴んでくれたので、転ばずには済んだ。すると、リゼルが私の前で屈んだ。



「リゼル?」

「送ってやっから、背中に乗れよ」

「大丈夫だよ。一人で帰れるから」

「一歩踏み出して、転びそうになったヤツが何言ってんだ!」

「いや、でも…」


私が躊躇っていると、リゼルは立ち上がり、にっこりと笑う。
怖い、怖い。その笑顔が怖い!



「抱えられるのとおんぶ、どっちがいい?今すぐ選ばねーと抱えて帰るぞ!?」

「わ、わかった!おんぶ。おんぶの方でお願いします!」


やむなく私は、リゼルの背中に乗って、帰途につく。途中で空からチラチラと白いものが降ってくる。



「雪、降ってきたね」

「予報で言ってただろ?夜になったら、降るって。場合によっては積もるってよ」

「そうだったんだ…」


リゼルにおんぶされてる。何か不思議だなー。



「…ふふ」

「何笑ってんだよ」

「いや、リゼルにおんぶされる日が来るとは思わなくて」


一年前なら、絶対にあり得なかった。だから、私はつい笑ってしまった。



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