Anemone

【side·R】


もっと近づきたい。もっと触れたい。

あなたにあたしは映ってる?



久々にハルクと二人だけで過ごせる日。あたしにとっては貴重な時間。

アリスは兄貴が連れ出しているから、しばらくは帰って来ない。

なのに、ハルクはさっきから落ちつかないのか、窓の方ばかり見て、こっちを向いてくれない。



「ハルク。さっきから外ばっかり見てる…」

「いや、アイツ、大丈夫かと思って…」


この場合のアイツは、アリスのことだ。

もうアリス、アリスって!ハルクの恋人はあたしでしょ!?目の前にいるあたしを見て。

いい加減、頭にきたんだから!
あたしはハルクの膝の上に強引に座った。そんなあたしにハルクが目を丸くする。



「ラセン?」

「せっかく二人きりなんだから、もっと恋人らしいことしようよ!」

「恋人らしいこと?」

「そう。例えば…」


ハルクの首に腕を回して、抱きつく。それから唇を軽く押しつける。



「久々だね、こうするの…」

「ラセン。ちょっと待っ…」


もう一度、キスする。
恋人の特権。あたしはハルクの恋人だから、いつでもキス出来る。その先のことだって。



「ハルク…」

「ラセン。何かおかしくねェ?どうかしたのか?」

「ハルクは今あたしのことだけ考えてくれたらいいの…」

「何言って…!」


ハルクを押し倒して、その上に跨がる。あたし、イケない子かな?でも、いつまでも待ってられるほどイイコじゃないんだよ。



「ラセン?」


あたしを見上げるハルクは新鮮だった。いつもはあたしが見上げる方だから。

あたしの愛しい人。



「ハルク」


ハルクの唇を指でなぞる。あたしだけのもの。唇だけじゃない。髪も瞳も腕も何もかも全部、あなたはあたしのものなの。

アリスがいないこの瞬間、あなたの中にあたしをどれだけ刻めるか。それが大事なの。


見つめ合って、あなたとあたしだけの世界。他の誰も入れない。アリスさえも入ることは許さない。



「大好きよ、ハルク…」


それ以上、言葉なんか必要ない。
二人だけの時間は、次いつ取れるかわからない。だから、せめて今だけはあなたといたい。

ハルクに抱きついたまま、あたしは眠る。幸せなはずなのに、涙が流れた━━━。





【END】
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