Doll Ⅰ




「あら、もうこんな時間なのね。そろそろ帰るわ」


しばらくして、ダリアさんが時計に目を向け、ソファーから立ち上がった。



「えー、もう帰るの。久しぶりだから、もう少し話したい」

「ラセン。気持ちはわかるが、ダリアもこっちに来たばかりだ。それにこっちに来ているんだから、機会はまだある」

「そうだよね!兄貴。わかったよ」

「落ちついてから、うちの方にも遊びに来てね」


そう言って、ダリアさんは帰って行った。ハルクやセツナが送るというのも断って、一人で。



「ハルク。ダリアさんを送らなくて本当に良かったの?」

「向こうだったら、危ねェから送るけど、こっちなら平気だろ。ダリアなら」

「え?強いの…」

「強いぞ。そこらに歩いてる男ぐらいなら、一撃で倒す。数人来ても瞬殺するはずだ」


何故かハルクではなく、セツナが答えた。というか、どれだけ強いの?ダリアさんって。



「ダリアって、昔荒れてた時あったよなー」

「ああ、あの時から女にしてはやるとは思っていたな…」


ハルクとセツナが昔を思い出したのか、懐かしながら語り合う。元ヤンだったのかな、ダリアさん。にこにこしてるから穏やかなのかと思っていたけど、怒らせないようにしよ。

そんな二人を放っておき、私は窓に近づく。空には、満月だけ浮かんでいた。



(そういえば、桜の木の下にいた人、何で泣いていたのかな。泣いていたのに、キレイでつい見とれちゃったな)


この時の私はまだ知らない。

何故、彼があの場所で泣いていたのかを。

知った時、何が待っているのかも。





こうして、私の高校生活二度目の春が始まった。



【1・終】
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