Mandarin




無事にトイレを見つけて済ませたおれは、ヤツデ達のところに戻ろうとしていた。すると、前方で男二人が一人でいる女の子に声をかけていた。



「君、可愛いね!」

「一人で来たの?なら、俺達が案内してあげるよ」


ナンパか。こんなところにもいるんだな、ナンパするやつって。女の子はどんな……って、タスクさん!?見なかったことにしよう。おれは回れ右して、来た道を戻ろうとした。
が。



「っ!?」

「やだー!あっくんたら、やっと見つけたんだから!」


タスクさんに腕を掴まれた。てか、顔に逃げてんじゃねーよの圧がすごい。その顔でナンパを撃退すればいいじゃん。この二人組、絶対逃げてくよ。



「え?それが彼氏??」

「釣り合ってなくね?」

「弟じゃねーの?」


何かその言葉、よく聞かされるな。マジで腹が立つ!



「あなた達にそうは見えなくても、私達はラブラブなの。ね?あっくん」


あっくんって、おれのこと!?タスクさん、リコリスさんがいるじゃん。
そうか。今はいないから、おれが代わりなわけね。



「うん…」


怖いから従っておこう。逆らって恨まれても嫌だし。タスクさんを怒らせたら、どんなことされるかわからないし。
前にハルクがやらかして、タスクさんを怒らせて、ひどいめにあってたの見たから、余計に怒らせてはいけないと誓った。あと、セツナも同様。あっちもタスクさんとは別な意味で怖い。

そんなことを考えていたせいか、ナンパ二人組とタスクさんのやり取りをまったく聞いていなかった。

突然、右頬に何か柔らかく温かい感触がした。ん?横を見ると、タスクさんがにっこり笑う。え、今、キスされたの?おれ…。



「っ!?な、な、な…」


パニクるおれをよそにタスクさんはおれに抱きつきながら、ナンパしてきた彼らに告げる。



「あなた達が入る隙間もないの?わかってくれた?」

「「は、はい…」」


うわあ。わかったらとっとと失せろとタスクさんの顔に書いてあんですけど。タスクさん、かなり頭にきてたんだろうな。結構しつこそうだったからな、この二人組。そうして、ナンパの二人組が立ち去ると、タスクさんもおれから離れる。



「はあー。やっと行った。マジでウザかった…」

「頬にキスは流石にやり過ぎじゃないんですか?タスクさん」

「仕方ねーじゃん。アイツら全然諦めねーんだし。それとも唇が良かった?アリス」

「いやいや、それは遠慮します!おれにこんなことしたら、リコリスさんが悲しむんじゃないですか?」

「それくらいで私達の仲は壊れるほど、柔じゃないし。私はリコリス一筋なんだから、アリスに惹かれることはまずない」


確かにそうだろう。リコリスさん、イケメンだし。おれが全然敵わないのくらいわかってるけど、そうハッキリ言われると何か悔しい。



「でしょうね。それはおれも同じですから。…じゃあ、おれ行きますね」

「あ、待って。アリ…」


タスクさんが呼び止めるのも気づかず、おれはさっさと歩き出した。
何かおれ、あっちの世界の人間に振り回されてばかりいるよな。お参りの内容は、来年こそは振り回されないようにお願いしようかな。自分をしっかり持とう!



「…あ、そうだ。ヤツデ達にメッセしなきゃ」


しかし、ヤツデに連絡取ろうにも、今、回線が繋がりにくいからメッセも送れない。電話も繋がらない。最悪だった。

仕方ないや。一人でお参りしに行くか。

しばらく歩いていたら、少し離れたところに見慣れた後ろ姿を見つけた。



「ハル…」


ハルクを見つけて、呼ぼうとしたけど、やめた。ハルクもラセンと一緒だ。恋人といるんだから、おれは邪魔だよな…。出しかけた手を下ろす。
周り見ても、カップルでいたり、友人達で集まってる。一人なのは、おれだけ。

お参りしに行こうにも人が多くて、しばらくはまだ出来そうにない。…もういいや。お参りする気がなくなり、その場を離れた。

途中で甘酒見つけて、それを手に持ちながら、人気がない場所へ向かう。
神社の奥のあまり人が来なそうな場所を見つけて、階段を上り、一番上に座り込んだ。



「はー、おいし…」


甘酒飲んだら、少し暖かくなった気がした。体も心も。

ちょっとしてから年が明けたのか、遠くが騒がしかった。
新年か。去年もあっという間だったなー。色々なことを思い出しながら、想いに耽る。



「リク…」


年越しは、毎年家族で過ごした。そば食べたり、歌番組見たり、カウントダウンして、年を一緒に越した思い出。当たり前だったはずの日々が一瞬にしてなくなった。

妹に恋して、その想いを秘めながらも、傍にいられるだけで良かった。
でも、今はそのリクがいない。

悲しくなって、涙が出て来た。目元を拭っても涙は簡単にはおさまらない。おれ、今日は精神的に弱ってるのかな?こんな顔じゃ誰にも会えないや。膝に顔を埋めて、涙がおさまるのを待つ。



「こんなところで何している…?」


今、一番聞きたくなかった声。
聞こえなかったフリして、無視しよう。おれはしばらくそのままでやり過ごす。



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