Peony




帰る途中でアリスに言われたことがあった。微妙にイラつくことを。


「しっかし、二人は喧嘩するのに、同じことするよね」

「何が?」

「私にシズラビ渡す時に“いらないなら捨てろ”って、同じようなこと言うんだもの、思わず笑いそうになっちゃったよ」

「リゼ公もそう言ってたのか…?」

「うん。台詞は少し違うけど、ほぼ同じ。渡し方も似てた」


マジかよ。何で同じことすんだよ?あの野郎!


「本当は気が合うんじゃないの?」

「やめろ!気味が悪りぃ…」

想像しただけで吐き気がする!










その夜。

オレはミカドに電話かけた。女といるから出ないかとも思っていたが、アイツはすぐに出た。今話しても大丈夫かとたずねてみると、ミカドは構わないと言ったから、しばし話すことにした。


『アリスちゃん、喜んでたでしょ?』

「お前、あれがレアのうさぎだってわかってただろ?」

『もちろん。女の子達から聞いてたしねー。欲しがっていた子もいたよ』

「じゃあ、何でオレに…」

『ハルクにじゃないよ?アリスちゃんが喜びそうだなーとは思ってさ。前に探してるってのは聞いたことあったんだ。それにあのうさぎ、自分で見つけるより誰かからもらった方が幸運の威力が増すんだって』

「そうなのか?アリス、それは言ってなかったぜ」

『あまり知られていない裏ジンクスだからねー。アリスちゃんは知らないはずだよ。俺だって、知り合いに聞いた話だし』

「知り合い?あー、また女か。お前、本当に女は一人に絞れねーわけ?いつか刺されるぞ」

『俺なりに大事にしてるよ。でも、満たされないんだよね…』

「あー、そうですか。話はそんだけ。じゃあな」

オレは電話を切った。アイツ、人が真面目に話してんのにふざけたこと言いやがって。少しは心配してんだぞ。ったく。



「何怒ってるんだ?ハルク」

いつから横にいたのだろうか。セツナが立っていた。相変わらず薄着だよなー。こんな寒い夜でも。


「ちょっと女遊びが激しいヤツに助言してただけ。無駄だったけどな」

「……そういう男もいるんだな。他の女で発散するというか」

アイツ、本当に何人と付き合ってんだよ。見る度に女が違うし。もしかして、付き合ってるとかじゃなくて、体だけか?そりゃあ、理解出来るわけねぇよ…。


「マジで理解出来ねぇ…」

「お前は真っ直ぐだからな」

「何?セツナは理解出来んの?」

「ボクにも無理だな…」

「だよな…」

今まで周りにそういうヤツいなかったからな。アイツが稀なのかもな。










切れたスマホを片手に彼は笑う。


「俺の心配までするなんて優しいね、ハルクは…」

空を見上げると、月が浮かんでいた。それを見て、彼は呟く。


「俺の心を満たしてくれるのは だけ。でも、もういないから、満たされることはない…」

「ミカド、そんなところで何してるの?」

「んー?お月様眺めてただけだよ」

ベランダにいるところを女が声をかけてくる。愛想笑いを浮かべながら、彼はベランダから室内に入った。



(いつかこの心が満たされる日は来るのかな…)

ふと彼の中にある少女が思い浮かぶ。けれど、彼女は“彼女”ではない。


(でも、似てるんだよな…)

そう考えながら、彼は目の前にいるまったく違う女に覆い被さった…。





【END】
(2021.12.24)
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