Peony




それは数日前に遡る。

学校帰りにクラスでつるんでるヤツらと街に遊びに来ていた。
クリスマスも近いから、ラセンに渡すプレゼントでも見つかればいいなと思いながら、あちこち店を見ていたら、丁度いいものを見つけて買った。

これで後は渡すだけだな。

そういえばエンジュ達、どこにいんだ?近くには姿はない。メッセしてみようとスマホを取り出しながら歩く。

すると、昨日、アリスが言っていたうさぎを別の店で見つけた。思わず立ち止まって見る。

アイツ、これ欲しがってたような…。鞄にも自分の誕生日が入ったうさぎをつけてたし。



「……」

いや、何でオレがアイツに買うんだよ!彼女でもねーのに!
けど、これやれば喜びそうなのはわかっている。昨日怒らせてから、話しかけてもすげー機嫌悪いし。昨日出された飯、明らかにオレにだけおかずが少なかった。


「ハルク。うさぎ見ながら、何してんの?」

「ミカド…」

コイツはオレが学園に編入してから、知り合ったヤツだ。今年も縁があるのか、同じクラスになった。そこはエンジュと同じだけど。

ミカドはよく女と一緒にいることが多い。いつもなら女と帰るのに、今日は気分じゃないからーと言って、オレ達について来たようだ。ま、見る度に相手の女が毎回違うけどな。こないだは他校の女と一緒にいたし。


「しばらくハルクの様子を見てたけどさ、うさぎ相手に百面相してて、面白かったぜ」

「見てないで、さっさと声かけろよ!」

「んで、ハルクはそのうさぎは誰に買うの?」

「え…?」

「買うから見てたんでしょ?買わないなら見ないじゃん」

「そうだけど、そうじゃないつーか…」

アリスに買おうかどうか迷ってはいる。けど、アイツがオレからもらって喜ぶか?



「ふーん。もしかして、アリスちゃんにあげんの?」

「そうじゃねぇ。いや、そうだけど…」

「どっちだよ。さっきからすげー迷ってるじゃん。いつもは即決で物事を決めてるくせに…」

ミカドに笑われた。何かからかわれてるみてーで、すげー腹が立つな。


「てか、ハルク。買うなら、こっちにしときなよ?」

ミカドが手にしたうさぎを思わず受け取る。見てみると、こないだアリスが手に持っていたうさぎとは模様が違う気がする。


「え?これ…何か模様が違くねぇ?」

「それでいいの。ほら、さっさと買って来なよ。今なら、レジ空いてるし」

そう言って、ヒラヒラと手を振るミカド。オレは仕方なくそのうさぎを持って、レジに向かう。何かこれ持ってたら、周りにいたヤツらが目の色変えて、うさぎのとこに向かって行ったけど、あれは何だったんだ?一体。










それから数日後。今日は終業式。授業もないから、掃除がねーヤツらはとっとと帰って行った。オレだって帰りてぇよ。



「…まだかよ」

アリスの帰りを教室で待っていた。教室にはオレ以外誰もいない。さっきまでエンジュもいたが、部長に呼ばれたらしく、部活に行ってしまった。

その時、教室のドアが開いた。アリスだった。
ようやく戻って来た。何でコイツはいつも遅いんだよ。


「遅ぇよ、アリ…」

そんなアリスの手には、例のうさぎがあった。何で持ってんだよ。


「それ、何でお前が持ってんだよ。持ってないって言ってただろ…」

「さっき、もらったんだ!」

「ふーん…」

興味ないフリでそう言ったが、内心は焦っていた。アリスが持つうさぎと似たものが自分の鞄の中に忍ばせていたからだ。朝から渡そうと思って、タイミング見計らっていたが、全然渡せなくて、帰りには渡せるだろうと待っていたわけで…。

しかも、誰かに先を越された。

あれを渡したのは、リゼ公だろう。アイツも渡そうとチャンスを窺っていたのかよ。まったく同じ考えだったことに少し嫌悪する。

それにしても…。


「さっきからニヤニヤし過ぎだろ、お前…」

「だって、これ、本当に欲しかったから嬉しくて…!」

うさぎを見て、ニコニコするアリスにイラッとした。リゼ公から貰ったプレゼントだということにも。

オレが持ってるこのうさぎ、どうしたらいいんだよ。ラセンはこういうの好きじゃねぇし。他にこっちで話すヤツはいるけど、こういうのやるほど親しくはない。だからって、適当な女にやって誤解されんのも嫌だし。どうすんだよ。


「ハルク、帰らないの?」

「え…」

アリスに声をかけられるまで、オレはずっと考えていたみたいだ。アリスは既にもう鞄を持っていた。鞄にはさっきのうさぎがつけられていた。早速、つけてんのかよ。


「今行っ…」

慌てて鞄を取ると、引っかけた上にちゃんとしまってなかったのか、鞄の中身をぶち撒けてしまった。
やべ!急いで拾わねーと。中身を鞄に適当に詰め込んでいたら、アリスが何かに気づく。


「こっちにも何か落ちてるよ?」

「それ、触っ…!」


何でそっちに行ってんだよ。オレは頭を抱えた。鞄の中にあったうさぎがアリスに拾われたからだ。完全にバレた。


「ハルク、これ…」

「…何だよ」

「ハルクも誰かにもらったんだね!」

「は?」

どうやったら、そういう思考回路になんだよ。おかしいだろ!


「あれ、違うの?」

「違えよ!誰がオレにこのうさぎを渡すんだよ!」

「だって、それ、ジンクスがあるうさぎだよ?」

ジンクス?これ、リゼ公と同じ12月限定のうさぎじゃねーの?


「これも12月限定のうさぎだろ?」

「全然違うよー!これ、クローバーだよ!色も違うし。そのうさぎは、コウラビ…幸運ラビットっていって、それを渡すと、その相手を幸せにするってジンクスがあるんだよ」

「幸せにする?こんなうさぎ渡したくらいで幸せになれるかよ…」

どんだけおめでてー頭だよとつい思った。そんなもんくらいで幸せになるんなら、もっと世界は平和だろ。


「うちの学校でもジンクス叶ったって言ってる子がいるんだから。それにこれ、なかなか店頭になくて、出た瞬間に完売しちゃうほど人気なんだよ!」

「そうなのか?」

「ハルク、どこでそれ見つけたの?私でも今まで見つけられなかったのに…」

そう言われても、ミカドから渡されたのをそのままレジに持って行っただけだしな、オレ。
でも、これ持った時にやたら視線を感じた気はしたんだよな…。そのうさぎだったから、皆が目の色変えて探しに行ったのか。

アリスがオレにうさぎを返してくる。オレはそれを受け取る。


「はい。誰かに渡すなら、ちゃんと…」

「やる」

アリスの前にそのうさぎを差し出す。が、アリスは受け取らねぇ。それどころか、何で私?…みたいな顔していた。……おい、空気読め。そういうとこだぞ。お前の悪いところは。


「え、私…?」

「オレの目の前にいんの、お前だけだろ。他に誰がいんだよ…」

アリスに呆れながらも、再度促す。本当に鈍いな、コイツ。


「ラセンに興味ねーもんを渡しても喜ばねぇよ」

「そう?ハルクが渡すものなら、大抵は喜びそうだけど」

「これ渡して、オレのセンスを疑われてもな…。ラセンには別のもん渡すからいいんだよ。お前もいらないなら、これは捨てるだけだぞ」

「捨てるのはだめ!」

「いるの?いらねーの?」

「いる!」

「ほら」

ようやくアリスはうさぎを受け取った。うさぎを見て、実感がわいたのか、笑みが浮かんでいた。そして、顔を上げると、オレに向かって、


「……………ありがとう」

礼を言った。
バカ、最初からそう言えばいいんだよ。ったく。本当にオレには素直になんねーからな、コイツ。


「…どういたしまして」

「嬉しいな。ハルクが私の幸せを願ってくれるなんて…」

「お前、さっき相手を幸せにするって言ってなかったか?」

「そうだよ。恋人同士ならプロポーズの意味もあるみたいだけど」

「はあ!?プロポーズ?」

「うん。これをプロポーズを込めてプレゼントした人もいるんだって。SNSで投稿してた人もいたから」

それ聞いてっと、オレがコイツに告白してるみてーじゃん。


「プロポーズ、ね…」

「大丈夫だよ。私とハルクはそんな関係でもないし、恋人でもないんだから!」

そんなオレとは対照的にアリスは笑ってそう答える。確かにそうだけど。そこまでハッキリ言われると、何かムカつく。


「ふふ、今日はいい日だなー。このうさぎ達のお陰かな!」

「これくらいでお手軽なヤツだな…」

うさぎをプレゼントされたくらいで嬉しくなるなんて、アリスくらいだろ。
ま、いい。機嫌悪いよりはな。お前が笑ってくれるなら、それでいいか。



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