Queen anne's Lace




また嫌な季節がやってきた。

街を歩けば、どこもクリスマス一色。浮かれてるヤツらが多い。この時期は本当にバカばっか居やがる。マジ休日に外に出るもんじゃねー。さっさと帰るか。早歩きでその場から立ち去る。

少し歩いていたら、店頭にやたらカラフルなうさぎのぬいぐるみが沢山並んであるのが目に入った。すげーな、このうさぎ。つい立ち止まって見る。女物をメインに扱っている雑貨屋なせいか、店内は女しかいない。店に入る気はねーけど。

しっかし、これどっかで見たな…。女子達の鞄についていたのと似ている。アリスの鞄にもついてた気がすんな。もしかして流行ってんのか?このうさぎ。

これプレゼントしたら、アリス、喜ぶんじゃねーの?

……。
いやいや、オレがプレゼントとかない、ない。誕生日でもねーのに何でやるんだよ。仮にそれがオレだったら不審がって受け取らねーし。
こんなことで悩んでアホらし。さっさと帰ろ。


「……」

が、何か気になって、戻ってしまう。

つーか、アイツはどれ持ってんだよ。区別つかねーよ、このうさぎども。366日分のうさぎあるし、更にクリスマス限定色のうさぎとかまでありやがる。わけわかんねーよ!

適当なうさぎを持ち上げて、睨むように見る。こいつはどうだ?アリス、この色なら好きだろ。


「ワンダーちゃん、それ持ってるよー」

「なら、これはやめとくか。じゃあ、こっちにしてみるか」

「うんうん。それ、12月限定の雪結晶のモチーフになってるライトブルーだよね?それは欲しがっていたよ。こっちのクリスマス限定色のやつはこないだ買ったって言ってたし」

「お前、詳しいな…」

「数日前にワンダーちゃんとこの話をしてたからね」

ん?オレ、さっきから誰と話してんだよ。一人言にしては会話になってたし。つーか、聞いたことある声…。

顔を上げると見覚えのあるヤツがいた。そいつはニコニコと笑ってやがった。こいつの場合、バカにした笑いじゃねーことはわかるけど。それでも知り合いにこんなところを見られたのは恥ずかった。


「エンジュ…」

「はろはろー、ゼルゼル!」

同じクラスのエンジュ。黒髪で女みたいな容姿でよく間違われるがオレと同じ男。タメ。外見に加え、話し方も幼く見えるせいか、学校でもよく年下に見られてる姿も目にする。
しかも、よくわからないあだ名で呼ぶ変なヤツ。オレがいくら睨んだり、冷たくしても全然怖がらねーで普通に声をかけてくる。


「ゼルゼルじゃねーよ。そう呼ぶなっていつも言ってんだろ」

「えー。ぼくからしたら、ゼルゼルはゼルゼルだし。今更変えられないよ」

何度言ってもききやしねー。外見に似合わず頑固だよな、コイツ。



「エンジュ、そんなところで何してんだ?」

げっ、一番会いたくねーヤツが来た。休みの日まで顔合わせたくね。逃げるか。
さっさとずらかろうとしたのに、すかさずエンジュのヤツがコートの裾を掴みやがった。離せ、バカ!


「ハルハルだ!何してんの?」

「アリスに連れ出されて、買い出しだよ。アイツ、人使い荒いからな」

「相変わらず仲良しだねー。休日まで一緒なんて」

「それ、アイツの前で言うなよ。すげー怒るから」

「そうなの?ぼくから見たらそう見えるけど」


エンジュ、マジ離せ。オレはコイツと話すような間柄じゃねーんだよ。てか、意外に力強いな、コイツ。はずせねー!



「プレゼント見てたんだよ。ねー、ゼルゼル」

「別に誰もやるとは言ってねーだろ…」

「へえー。リゼ公がプレゼント、ね…」

何だ、その顔。オレにプレゼントする相手なんているのかっつー顔は。


「んだよ。何か文句あんのかよ。ハルバカ野郎」

「は?別に。何も言ってねーだろ!リゼくそ野郎」

「まあまあ!…ハルハルは彼女にプレゼントしないの?」

エンジュがアイツの女にプレゼントをやるのかを聞いていた。確か、あのつり目で態度もツンツンしてたツン子。名前は知らね。


「プレゼント?」

「そう!ハルハルからなら喜んでくれるんじゃない?」

「そうかー?オレがやって、アリスが喜ぶかよ…」

「は?」

「え?」

コイツの言葉に思わず声が出た。エンジュも同じだったのかほぼ同時だった。

コイツ、今なんて言った?
彼女にプレゼントって聞いたのに、何でアリスが出て来んだよ。てめーの女はツン子だろ。いつからアリスになったんだよ。


「ハルハル、言い方が悪かったかな?ぼくはグルグルちゃんにクリスマスプレゼントあげないの?…って意味で聞いたんだけど」

「おいおい、エンジュのせいじゃねーだろ。コイツが勝手に勘違いしただけで。自分の女もわからなくなったのかよ。カワイソーに」

「はあ?ちょっと勘違いしただけだろ。女もいねーヤツに言われたくねぇよ」

「女がいるからって偉そうにすんな!しかも、別の女の名前出すし、本当に好きなのかよ」

「好きに決まってんだろ!」

睨み合っていると、エンジュが間に入ってきた。


「まあまあ、二人共。落ちついて。注目されてるよ?」

そう言われて、周りを見ると確かにこっちを見ているヤツらがいた。見せもんじゃねーぞと睨み返していると蜘蛛の子を散らすように去っていた。

と、そこへ。


「もう!こんなところにいた!!」

「げっ、アリス…」

アイツがアリスを見て、顔を思いっきりしかめた。コイツのことだから、逃げて来たんだろ。


「まったく買った荷物を持ってもらおうとしたら、いつの間にかいないし!探したんだからね!?」

「悪かったって!こっちはお前がなかなか来ないから待ちくたびれて、ちょっと離れただけだろ。で、荷物は?」

「お店の人に頼んで、預かってもらってます!」

ハルバカがアリスに怒られてやがる。面白れ。いい気味だ。
そんな二人のやり取りを黙って見てたエンジュが口を開く。


「ワンダーちゃん、そんなにハルハルを責めないであげて」

「エンジュ。お前…」

「エンジュ。……あ!シズラビだ!可愛い…」

アリスが並んでるうさぎに声を上げて、それを手に取る。おいおい、切り替え早すぎじゃね?
しかも、アリスが手に取ったのはさっきエンジュが言っていたライトブルーのうさぎだった。


「シズラビ??」

「シーズンラビットっていうの。それを省略してシズラビ。季節毎に色々なうさぎが発売されてるんだよ。毎月その月限定うさぎがあって、今月は雪の結晶モチーフとしたうさぎなの。シーズン毎のは3ヶ月くらいは販売してるけど、これはなくなったら終了なんだから」

「こんなのどこがいいのか、全然わかんねーわ。ただのうさぎだろ…」

オレもそう思った。口には出さなかったが。アリスの話を聞いていても、まったく理解が出来ねーし。


「あー、ハルハル…」

「別にいいわよ。わかってもらえなくても!」

そう言うと、アリスはうさぎを戻して、行ってしまった。あー、あれは完全に怒らせたな。アイツはアリスを怒らせてばっかいるな。



「アリス!……悪りぃ。オレも行く。またな、エンジュ」

「また明日ねー。ハルハル」

アリスの後を慌てて追うようにアイツもいなくなった。怒らせるくらいなら、余計なこと言わなきゃいいのに、アホだろ。アイツ。


「ゼルゼル、どうする?」

「…何がだよ」

「これ」

エンジュがうさぎを指差す。さっきアリスが手にした12月限定のうさぎを。



「ワンダーちゃん、やっぱり欲しがってたね」

「確かに欲しがってたのはわかっけど」

「けど?」

「オレからプレゼントされても嬉しくねーだろ」

プレゼントなんて、もらった相手を喜ばせるのが前提だろ。嫌がられたら、そのプレゼントの中身までかわいそうじゃねーか。中身は何も悪くねえのに。


「別にプレゼントするくらいならいいんじゃないかな?」

「は?」

「だって、別に下心あるわけじゃないでしょ?」

「下心?」

「付き合いたいとかそういうの…」

「あるわけねーだろ!」

誰かと付き合いてーとか考えたこともねーよ!女なんていても、うるせーだけだろ。ま、アリスなら構わ……いやいや!


「ワンダーちゃんとならアリかも?…とか思ったでしょ」

「違えよ!」

「はいはい。世話になったからあげるとかでも全然アリだと思うよ、ぼく」

「?」

「軽い気持ちなんでしょ?ただワンダーちゃんにプレゼントしてあげたいだけ」

「…まあな」

「プレゼントをあげたいか、あげたくないか。あとはゼルゼル次第だよ。じゃあ、ぼくも用事あるから行くねー。バイバイ!」

そう言って、エンジュもいなくなった。その場に一人残ったオレ。

プレゼントをどうしたいのか選ぶのは、オレ自身。アリスが喜んでくれるかわかんねー。オレからもらっても嫌がるかもしんねー。

だけど、オレは…。



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