Solanum lyratum




ドラちゃんとデートすることになったのだが、彼女はいまいちデートというものをよくわかっていなかった。
ま、おれも彼女いないからわかんないけど。クリスマスデートも何したらいいかも。
だから、クリスマスというのを忘れて、取りあえず二人で遊んでみることにした。

あちこち連れて行って遊び回ってみると、ドラちゃんは何をやるにも初めてのことばかりで反応が新鮮だった。表情もくるくる変わって、見てるだけで楽しかった。こういうの求めてたんだよ!可愛い彼女とデート。



そうして過ごしていると、いつの間にか日も暮れて、真っ暗になっていた。最後は今日がクリスマスイブということで、駅前にあるイルミネーションを見に行った。そこには沢山のカップルで溢れていた。どうせこの後には聖なる夜が待っているんだろ。けっ。おれにはまったく関係がないけどさ!


「アリス、眉間にシワがよってる。何か怒ってる?」

「ん?そんなことないよ。ドラちゃんといるのは楽しいし」

「えへへ」

ドラちゃんが抱きついてきた。この子、誰かに抱きつくの好きなのかな?スキンシップ激しいというか。


「可愛いねー、アリスは」

「うーん。可愛い女の子から可愛いと言われても、何か複雑…」

「アタシの場合、可愛いは褒め言葉だよー!可愛くないヤツには絶っ対言わないし。あ!アリス。あっちに行こう!」

そう言って、ドラちゃんに引っ張られ、あまり人気のない場所に連れて行かれた。イルミネーションからはかなり離れたけど、ここからでもよく見える。キレイだー。

すると、ドラちゃんがおれの首に腕を回して、抱きついてきた。


「ド、ド、ドラちゃん…」

「なーに?アリス…」

「ち、近いよ…」

「ねぇ、ちゅーしようか?」

「え、ちゅー?」

まさかのキス!?えー、こんな可愛いドラちゃんと?いやいや、おれにはリクがいるのに…。
でも、キスくらい……っ痛てーーー!

キス寸前で突然、横から誰かに蹴飛ばされた。蹴飛ばされる直前にドラちゃんは察知したみたいで、避けていた。

てか、誰だよ!お邪魔してきたのは。起き上がり、顔を上げると知っている顔があった。


「バカップルがいると思ったら、お前かよ。アリス…」

「リゼル…」

何か今日はやたら女子達から攻撃受けるんだけど、おれ、女難の相でもあるの!?


「また邪魔者?アリス、モテモテだねー」

「いや、ハルクもリゼルもおれのことなんて好きじゃないよ…」

「そうかな?興味なければ、相手になんてしないでしょー。さっきのヤツもソイツもアリスに興味あるから構うんだよ」

「誰だ?ソイツ…」

リゼルがドラちゃんを見て、目を細める。ドラちゃんの方は不敵に笑ってるし。怖い、怖い。この静けさが逆に怖いから。


「……ま、いいや。今日はこれで帰る。アリスとデートが出来たから気分はいいし」

「ドラちゃん…」

可愛い過ぎるわ、この子。本当に彼女になってもらいたいくらい。
……いやいや、おれはリクが好きなんだよ!つい可愛い子が来たからって乗り換えするような軽い男じゃない!


「アリス」

名前を呼ばれた瞬間、ドラちゃんの顔が目の前にあって、柔らかいものが当たる。
……ん?今、キスされたの?おれ。いや、ドラちゃんの唇がおれの唇ギリギリのところに当たっただけ。口にされたわけじゃないけど、口にされたみたいで恥ずかしいな。

でも、これ見ようによってはキスしてるように見えるのでは?


「ぐぇっ…!」

「「アリスに何してんだよ!」」

いきなり強い力で後ろに引っ張られた。首、絞まる!絞まってるから!!てか、二重に声が聞こえたけど。リゼルと…誰?


「リゼ公。何でいんの…?」

「ハルバカこそ、何でいんだよ?」

「は?そっちこそ!」

ハルクだった。…って、二人共喧嘩してないで、まずは手を離して。本当にやばいから!


「そこの二人さ、お前らが喧嘩するのは勝手だけど、早く手を離してくんない?アリスが死んじゃうんだけどー」

ドラちゃんの言葉で二人はようやく手を離してくれた。一瞬、知らないお花畑が見えたよ。やばかった!


「ごほっ、ごほっ……」

「大丈夫か?」

「お前が離さないからだろ?」

「人のこと言えんのかよ。てめーもだろ」

また喧嘩始めるし、きみ達本当は仲良しさんじゃないの?……と、思っても言わない。前に冗談言ってみたら、二人からすげー目で睨まれたから。この二人はそういう時だけはまったく同じ行動を取るんだから、本当は気が合うはずなんだよ。同族嫌悪?


「アリス、今日はありがとー!またデートしようねー!」

そう言い残し、ドラちゃんはあっという間に消えた。おれはドラちゃんに手を振って見送った。しかし、おれの両隣にいた二人は…。


「二度と来んな…」

「…同感だな」

二人共、ドラちゃんがさっきまでいた場所を静かに睨んでいた。怖い!
ハルクが急にこちらを振り返り、おれを見るなり怒鳴る。


「ったく、いつまでも家に帰って来ねーで、どこまで遊んでんだよ!お前は」

「可愛い女の子とデートだったから、嬉しくてつい…」

「何がデートだ。本当に女なら誰でもいいんだな、お前」

「つーか、女の趣味悪過ぎだろ、アリス…」

「最悪じゃね?」

ちょっと、何で女の子二人にダメ出しされてんの?おれ。きみ達、本当にこういう時は結託してさ!


「二人して、ひどい!おれに対して、何でそこまで言うの!!」

「あの女が可愛いとか言うからだろ…」

「どう見ても可愛くない。お前の前でだけ可愛いこぶってるだけだぞ、あれ」

「けど、ドラちゃんが可愛いのは事実じゃん」

おれの発言を聞いて、二人は深いため息をつく。


「もうダメだ。完全に麻痺してやがる…」

「既に騙された後か。こっちが注意して見とかねーと…」

何かすごい憐れな感じで見てくるのやめて。おれ、おかしくないから。
スマホで時間を確認すると、夜9時を回っていた。そろそろ帰らないと。でも、その前に…。


「リゼル。帰るんでしょ?おれ、家まで送るよ」

「…い、いい。一人で帰れるから」

「こんな日に一人で歩いてると危ないよ。夜も遅いし、変なのに絡まれるかもだし。リゼルの家まで送るって。家までが嫌なら近くまででも…」

「…うん」

リゼルが恥ずかしそうに頷いた?珍しく素直だったし。もしや今、デレた?常にツンツンのリゼルさんが。ゲームならスチル付きのイベントじゃん!どこにフラグあったの!?


「…ということだから、ハルクは先に帰っ…」

「一緒に行く」

「何で?…っ痛てて!」

またハルクに耳を思いっきり引っ張られた。今度は右耳。ハルクさん、おれに対して、当たりが強い。買い出しを途中で逃げたから、怒ってんの??


「お前、何でアイツには家送るって言うくせに、こっちにはそれがないんだよ!」

「だって、ハルクはおれいなくてもさ、充分強いから平…」

「はあ?お前、本当に死にたいみたいだな」

「……っ、キブ!ギブ!ハルク!!」

今度はコブラツイストかけられた。絶対にハルクなら、おれいなくても大丈夫だって。


仕方なく、3人で歩くことになった。
この3人で会話なんてまともに出来ないだろうから、おれはリゼルに話しかけた。すると、リゼルは普通に話を返してくれる。楽しく会話するんだけど、ハルクがたまに茶々入れて来るから、リゼルと喧嘩が勃発する。リゼルの家に着くまで、それがずっと続いたから、抑えるのが大変。もうこの二人は一緒にしちゃダメだ。

リゼルを家まで送り届け、おれはハルクと帰途につく。


「ハルクさー、何でリゼルと仲良く出来ないの?」

「出来るわけねぇだろ。それに仲良く出来てたら、喧嘩なんかしてねーよ」

「そうですね…」

はあー、やっぱり聞くだけ無駄か。何で喧嘩ばっかなんだろうな。絶対に気は合いそうなのにー。



「お前さ…」

「んー?」

「あの女とマジでキスしたわけ?」

キス?ああ、ドラちゃんとのことか。二人の喧嘩ですっかり忘れてた。


「それ、ドラちゃんにされたことを言ってる?」

「それ以外ねぇだろ?」

「確かにキスされたけど、唇にはされてないよ。ギリギリ頬って感じだけど」

「はあ?だって、あれを見てリゼ公もお前があの女とキスしたと思ってるぜ」

「そう言われても…。結局、何が言いたいのさ?ハルク」

「別に…」

何か言いたげなハルクに、おれはそれ以上は何も言わなかった。
ふと空を見上げると、白い何かが降ってくる。


「あ、雪だ!」

「本当だ。通りで寒……くしゅん!」

「ハルク、よく見たら薄着じゃん…」

「お前が帰って来ないから、慌てて出てきたんだよ。……くしゅん!」

ハルク、あまり厚着しないからな。仕方ない。ここはおれのコートでもかけてあげよう。ハルクには大きめだけど、風邪を引かせるよりはいい。コートを脱いでからハルクを呼ぶ。


「ハルク、ちょっとこっち向いて」

「ん?何だ…」

ハルクにおれのコートをかける。雪降ってきたから、寒いけど、おれにはまだマフラーはあるし。


「何でコート…?」

「ハルクも一応、女の子だからね。家に着くまでに風邪引いちゃうじゃん。だから、おれのコート着せた」

「ったく、一応ってなんだよ!それにこれくらい平気だって!」

「二回もくしゃみしてたじゃん。おれのコートでも何もないよりはマシでしょ?」

「………ありがと」

「どういたしまして」

少し悩んだ後、ハルクはおれに礼を言った。素直におれのコートを着て、歩き出す。


「今年はホワイトクリスマスかー。来年こそは可愛い彼女と歩いてたいな…」

「無理じゃね?」

「ハルク、ひどい!そこは出来るといいねとか言うとこだよ…」

「お前に彼女なんて出来るとも思えないからな。仕方ないから、来年も一緒にいてあげる」

「えー。すげー上から目線。ハルクらしいけど…」

「どう思ってたんだよ」

「ハルク様」

おれはハルクと二人で笑いながら、雪が降る帰り道を歩いて行った…。



【END】
(2021.12.23)
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