Solanum lyratum




30分後。
買い物を終えて、帰ろうとした時に、ハルクが何かに気づいて、声を上げる。


「しまった!あれ、買うの忘れた…」

「えぇー。こんなに買ったのに、買い忘れしたの?マヌケ…痛へへっ!」

ハルクがおれの頬、引っ張ったー。すぐ暴力に訴えるのは反対!


「あれないと、その料理自体が完成しないの。すぐ買って来るから、お前はここから一歩も離れるなよ?いいな?可愛い女の子が来てもだぞ?」

「見てるだけならいいんでしょ?」

「見てるだけならな。じゃあ、そこから動くなよ?アリス。わかったな?」

「もうわかったよ。しつこいなー」

「しつこく言わないと、すぐいなくなんのは誰だ?」

「痛たた…!ハルク様、お許しをー」

ハルクに左耳を思いっきり引っ張られた。もうやめてー。おれ、餅じゃないんだから。


「わかった、わかったから!ちゃんとここで待ってるから」

「…ったく、人の気も知らねーで。じゃあ、行ってくる!」

ハルクが再び買い出しに行ってしまった。おれは戻るまでスマホを見ながら待つことにした。
あ、メッセ入ってる。彼女いない仲間達からだ。……何々。これから合コンー!?聞いてない。ずるい!おれも行きたい。すぐにメッセ送ってみた。すると、すぐに返事が来た。

“アリスには、ハルクさんいるじゃん”

いやいや、ハルクは彼女でもないし!何でハルクがいるから、おれはダメなんだよー。裏切り者めー!合コン失敗するように呪ってやる!


「ねぇ」

「……」

「ねぇ~」

「……」

「もう!スマホばっか見てないで、こっち見て!」

そんな声が聞こえたと同時にスマホを奪われた。


「ちょっ…!」

顔を上げると、銀髪に赤い瞳をした長い髪の女の子。ん?よく見れば、見たことあるお顔。


「あれ?ドラ、ちゃん」

「だいせいかーい!…久しぶり、アリス」

そう言って、おれの腕にすがりつく。確かに久しぶりなんだけど、きみ、敵だよね?何でこんなにおれに懐いてるの?おれ、きみが気に入る何かをした覚えないんだけど。


「ねぇ、デートしよ!」

いきなり目の前にいる美少女に逆ナンされた。…いやいや、おれにはリクという心に決めた女の子がいるんだからダメダメ。ここはちゃんとお断りを…


「……だめ?」

上目遣いで首を傾げながらそう言う美少女の姿におれはやられた。いや、これを断れる男いる!?いないだろ。


「いいよ!」

「ダメに決まってんだろ!」

「………っ!ぐるじぃ…」

ドラちゃんの元に行こうとしたら、いつ戻って来たのか、ハルクに止められた。てか、ハルクさん。あなた、おれの後ろから首元の服を掴まないで。首が絞まってるんですけど!


「ったく、目を離すとすぐこれだ。ナンパされたくらいでホイホイとすぐ女についていきやがって。女なら誰でもいいのかよ…」

「ハルク以外なら!…って、痛たたたた!」

「いっぺん死んだ方がいいみたいだな、お前…」

「ギブ!ギブ!ハルク……!」

ハルクにヘッドロックかけられた。冗談なのにー。マジで死ぬかと思った…。


「てか、コイツじゃなくて、余所あたれよ。もっと暇そうなのいるし、コイツじゃなくてもいいだろ」

「アリス以外興味ないし。てかさ、お前こそなんなのー?恋人でもないのに、口挟んで来て、邪魔なんだけど」

「邪魔?」

目に見えないけど、見えたら絶対に火花あっただろ。ハルクとドラちゃんがお互いをすげー睨み合ってた。うわあ、迫力あるな。美少女同士だと。


「もしかして、アリスのこと好きなわけ?」

「はあ?んなわけねーだろ。こんな女に見境ない上にシスコン野郎だぞ、コイツ」

「ふーん。アタシはアリスが女に見境なくても、シスコンでも全然気にしないけど」

「ドラちゃん…」

あたい、惚れちゃったわ。もうドラちゃんの元へ行くわ。それに比べ、ハルクはひどい。いくら本当のことでもおれのこと貶して。


「ドラちゃん、デートに行こうか。ハルクなんて放っておいてさ」

「やったー!アリス、大好き」

そう言って、ドラちゃんが抱きついて来た。柔らかいし、いい匂いがする。…って、おれ変態みたいじゃん。いやいや、これは男なら誰でも思うことだし。


「アリス!」

「別にいいだろ!デートくらい。ハルクもたまにラセンとデートでもしてくれば?せっかくのクリスマスなんだし」

「あのな、そいつと二人っきりにさせるわけには…!」

「ハルク!!」

その時、ハルクの後ろから買い物を終えたラセンが抱きつく。よし、今のうちに逃げよう!ついでに荷物もラセンに押しつけよう。さらばだ!ハルク。おれは念願だったクリスマスデートしてくる。


「ドラちゃん、行こう!」

「オッケー!」

目を合わせると、ドラちゃんの手を取り、一斉に駆け出す。ハルクも追いかけようとしたみたいだけど、後ろにラセンがいるのと、人が多いせいで動けないようだ。


「アリス、話はまだ終わっ…!ラセン、ちょっと離せ。アイツらを追わないと…」

「放っておけば?夜になれば帰って来るよ。ほら、オレ達もさっさと買い出し終わらせてデートしよ!」

ラセンに引っ張られ、ハルクもおれ達とは反対方向に向かって行く。
そんな二人の姿を見て、少し胸が痛かった。…何で?あんなのいつも見慣れてるはずなのに。




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