Rowan
窓を閉めてから、アリスは俺が貸した漫画を静かに読んでいた。
「アリス。お前はハルクさんのこと、どう思ってんの?」
「ハルク?んー、姉ちゃんって感じ」
「だろうな…」
「ハルクもおれのこと、出来の悪い弟みたいにしか見えてないよ。学校終われば、いつもスーパーに荷物持ちで強制連行だしさ。逆らえば、怒るし。気に食わないと技をかけてくるからね?」
「二人見てると、確かに姉弟っぽく見えるけどさ、距離近くないか?本当に意識してないのかよ!?」
「距離が近い?確かにラセンがハルクと話してると離れろってうるさいけど。おれは別に近くないと思う。普通だよら、てか、ハルクをどう意識するの?」
「ハルクさん、いいじゃん。スタイルもいいし。そこらのアイドルよりも可愛いし」
「どこが?」
お前の目は節穴か。ハルクさん、人気あんだぞ!お前と話してるの見て、羨ましがってるやつが結構いるんだぞ。
そういうところが鈍感なんだよ!
「ハルクをそう言う目で見てたら、ラセンに殺されるよ」
「あー、ハルクさんの彼氏か…」
何度か見たことある。学校帰りに校門でハルクさんを待ってるイケメン。毎日はいないけど、来てるとすぐにハルクさんに抱きついてたな。外見だけなら、そうは見えないのに。
でも、そいつもアリスに似て、子供っぽいんだよなー。アリスと出くわすと言い合いが始まるし。まるで姉ちゃんの取り合いみたいな感じで。それをハルクさんが止めて。さっきと逆だな…。
「ハルクさん、お子ちゃまっぽいのが好みなのか?」
「何でおれを見ながら言うんだよー。おれ、ハルクの彼氏じゃないし。彼氏はラセンだからな?」
「いや、お前もハルクさんの彼氏と似たようなもんだぞ」
「えー、似てないから!」
「アリス」
噂をすれば影というか、ハルクさんがこちらにやって来た。一目散にアリスの前に来る。
「今日の帰り、スーパーに行くから、勝手に帰るなよ?」
「えー、また!?たまにはラセンと行けばいいじゃん。あいつなら喜んで行ってくれるよ」
「アイツとはあのスーパーには行けない…」
何かあったのか、ハルクさんは目を逸らしながら言った。
「何?また人前でキスでもされようとした?」
「違っ……違わないけど!」
顔が真っ赤だな。意外に初なのか?ハルクさん。見た目はすげー大人っぽいから、そういうのには慣れてんだと思ってた。
「少しは周り見なよ?バカップル」
「……っ、アイツが勝手に……!いや、そうじゃなくて」
「じゃあ、セツナは?」
「アイツに借りなんか作ってみろ。何十倍にして返さないといけなくなんだよ。……で、消去法でお前しかいないわけ」
「確かにセツナは返すまではしつこそうだよねー。てか、おれ、消去法で残っただけじゃん!」
「わかった。好きなもん、作ってやるから」
「それならいいよー!じゃあ、プリン作って。プリン!」
「子供みたいだな、お前は」
本当に姉弟だな、この二人。アリスもさっきまでは文句言ってたのに食い物に釣られて、あっさりと頷いたし。てか、プリンでいいのか。お手軽だな、お前は。
「話はそれだけ。じゃあな、アリスとヤシネ」
「ヤツデだよ、ハルク」
「ごめん。間違えた!」
「いいよ。気にしないで」
ハルクさんが申し訳なさそうに謝ってくれた。だが、彼女は毎回俺の名前を間違えて、全然覚えてくれないから既に諦めている。
というか、ハルクさんは男子の名前をまともに覚えない。唯一、ちゃんと覚えて呼んでるのはアリスだけだ。もっと自分のこと知った方がいいぞ?アリス。
そうそう。名前で思い出した。
先月に女子達に人気あるやつがハルクさんと少し話したぐらいで、何故かハルクさんと付き合えると勘違いし、ハルクさんに告白したことがあった。
だけど、彼女はそいつのことをまったく覚えていなかったようで、告白されて最初に返した言葉が「お前、誰?」だったらしい。
その話を聞いた時、俺はバカだなと思った。だって、あのハルクさんと話したからって認識されるわけがないんだから。よく告白しようと思ったな。逆にすげーわ。
普段女子達にちやほやされてるから、わからなかったのか。
「しかし、ハルクってヤツデの名前をよく間違えるよね。毎回わざと間違えてるのって思うくらいに…」
「俺のことに興味ないんじゃないか?」
「そんなことないと思うけど」
いや、興味ないから覚えないんだろ。興味あれば呼んでくれるだろ。顔だけ覚えてくれればもういいよ。
「ヤツデって、諦めが早いよね」
「諦め悪いよかマシだろうが」
「時と場合による」
俺はいいんだよ。お前の友人のモブ。それでいいんだよ。目立たなくていい。
【END】
(2021.12.29)
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