Hyacinth





それはある日のこと。



「ハルク、話があんだけど」

「話?」

「そ。大事なお話♪」

ハルクを見つけて、オレっちは笑う。上手く笑えてっかな?何かハルクの顔が青ざめてるけど。ま、いいや。この際ハルクの表情なんて、どうでもいい。この写真に比べたら、些末なこと。

オレっちはハルクに数枚の写真を突きつける。


「これ、なーんだ?」

「これがどうしたんで……!?」

写真を見た瞬間にハルクは言葉を失った。何でこれがここにあるんだって顔だな。オレっちに隠したかったのが丸わかり。


「これはリコリスが撮影スタッフからもらってきた写真だよ」

「そんなわけ…」

「あんだよ。お前はスタッフに処分させた。でも、お前のいない間にリコリスにこっそり渡したヤツがいたんだよ。だから、これがあるわけだろ?」

ハルクは全部処分したと思っていたんだろ。でも、隠れてリコリスの手に入ったことまでは知らなかった。

リコリス、本当に嬉しそう。写真でもわかる。この笑顔は心から笑っている。恋人のオレっちだからわかるんだ。リコリスの笑顔は大好きだけど、それがオレっち以外のヤツに向いているのが一番許せない。しかも、距離近くねぇ?もっと離れられなかったのかよ。


「い、いや、これには深い理由があって、ですね…」

「深い理由って何?」


何が深い理由があって、だよ。深い理由なんてねーだろ。しょうもない理由なら、ハルクを半殺しにしなきゃ気が済まねぇ。どうなんだよ?ハルク。


「これはただ撮影スタッフから指示されたポーズをやっただけなんです…」

「リコリスに壁ドンしたり、抱きつかれたりすることが?」

「そ、そうです。オレがやりたいって言ったわけじゃないです!」

ハルクがリコリスにするわけがないのは、わかってる。撮影スタッフが指示を出したんだろうことも。わかっていても、やっぱり許せるほど、オレっちは心は広くない。恋人が他の男と一緒なのを許せるヤツなんていんの?そんなヤツいたら、マジで疑う。お前、本当に好きなの?…って。

でも、リコリスが嫌がるならともかく、喜んでいるならばオレっちには止められない。ましてや、リコリスはハルクのことを気に入っているから。


「……」

「…タスク、さん?」

「……わかった。今回だけは許してやる。……でも」

「でも?」

「次やったら、お前を━━━━」

オレっちの言葉にハルクの顔が真っ青になった。あはは、面白れー!人間ってあんなに顔が青くなるのかよ。先程まであんなに不快だった気持ちが吹き飛んだ。


「オレっちの話はそれだけ。じゃあなー、ハルク」

ハルクと別れ、リコリスの元に戻ろうと歩く。ふとずっと手に持っていたハルクとリコリスの写真を見る。見ていると、やっぱりハルクに対して、黒い感情が湧いてくる。この写真を破り捨てようかと思ったけど、やめた。リコリスがあんなに嬉しそうに話す“思い出”をオレっちが簡単に壊してしまうのは違うから。


「……仕方ない。リコリスのためだ。今回は許してやるけど、次はねーからな。ハルク」

写真のハルクに向かって、オレっちはデコピンした。何か虚しい。こんなんなら、アイツのおでこにでも一発やっとけば良かった!

きっとこの胸の黒い感情もリコリスを抱きしめれば、消えるはずだ。だって、リコリスの一番はハルクじゃない。オレっちだから。そう考えたら、早く帰って、リコリスに会いたい。

写真をしまい、オレっちは駆け出した。



【END】
(2021.12.12)
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