Commelina communis




「大丈夫か?アリス」

目を開けると、おれの知っているハルクがいた。おれ、戻ってこれたんだ。


「アリス?」

「ハルクー!会いたかったー!!」

目の前にいるハルクを抱きしめる。おれの突然の行動にハルクが驚く。


「ちょっ…アリス!お前、抱きつくな。苦しい…!」

「ハルクだ!おれの知ってるハルクだー!嬉しい!ただいまー」

「アリス!!いつまでハルクにくっついてんだよ!離れろよ!!」

「やーだ。しばらくは離れない!」

「ふざけんな!ハルクはオレの恋人なんだから」

ハルクにくっついていると、ラセンが剥がしにかかるが必死に抵抗した。帰ってきたばかりなのに、離されてたまるか!


「ハルクはおまえだけのもんじゃないだろ!独り占め禁止!」

「オレのに決まってんだろ!独り占めも当たり前だ!」

「はあー!?誰が決めたんだよ!」

「オレに決まってんだろ!」

「アリス、ラセン。二人共、離れろ…」

「「やだ」」

「こんな時だけハモんな。…頭痛て」

ハルクを挟んで、おれはラセンと言い合いする。何かどこかで見かけた気がする。



“何しに来たんだよ”

“は?別にてめーのところに来たわけじゃねーよ”



あー、あっちの世界のハルクとリゼルだ。あの二人もすごい口喧嘩ばっかしてたし。

でも、おれは今ここで引くわけには行かない。ラセンに負けたくない!


「はあ、少しはまともになったかと思えば、元に戻ったな…。短かった」

「セツナ、見てないで助けてくれ!」

「…仕方ないな」

ぎゃあぎゃあと言い合いがヒートアップしてくおれ達にハルクは、対処しきれず、セツナに助けを求めた。
そんなやり取りにおれは、帰ってこれたと実感出来た。



「向こうのハルク、イケメンだったー。でも、性別以外はハルクとまったく同じだった」

「そうか。良かったな」

「そういえば、おれがいない時はあっちのアリスがここにいたんでしょ?」

「お前よりはまともだった。おとなしいし、お前みたいにすぐ抱きついてこないし。料理もちゃんと出来てたし、うまかった」

「確かに飯うまかった!ハルクには負けるけどさ。こっちのアリスが逆立ちしても、料理は出来ないよなー」

「む、おれだって、ちゃんとやれば出来…」

「出来ません。台所を半壊にしたのと材料を木っ端微塵にしたのは誰だ?」

「……おれ」

おれ、料理嫌いじゃないのに、向こうがおれのこと嫌うんだ。うん、そうに違いない。


「向こうのアリス、セツナとも本の話とか沢山してたよな」

「え?セツナと話せんの!?羨ましい!」

おれはソファーで読書しているセツナに目を向ける。セツナは顔を上げないまま、答える。


「ふん。私と話したいなら、もっと本を読んでから来い」

「えー、本開いた瞬間に寝ちゃうおれだよ?」

「じゃあ、会話は諦めろ」

「ひどっ!」

すると、おれとセツナの会話を聞いていたハルクが笑い出す。


「お前ら、今のままがいいよ。アリスとセツナが普通に会話してんの見ただけで目を疑ったし。あれはビックリした」

「えー、おれとセツナが話すだけで、そんなに驚くこと?」

「驚くに決まってんだろ!?姉貴とお前が仲良く話してんだぞ!しかも、本の話題だけで盛り上がってさ」

「仲良くはした覚えはないが、あちらのアリスなら歓迎する。お前と違って、話が合う」

ひどくない?
おれじゃなくて、あっちのアリスが良いみたいに。



「……っ」

「アリス…?」

「おれ、もう寝る…」

悲しくなったおれは部屋に戻ることにした。

何だよ!せっかく戻って来たのに。好き勝手言ってさー。向こうのアリス、アリスってー。少しはおれのこと、心配してくれたっていいのに!

……。

でも、確かにおれ、黙ってられないし、落ちつきないし、思ったまま行動しちゃうし。そう考えると、すごい迷惑かけてたかも。あっちのハルク、何も言わなかったけど、内心では「迷惑なヤツ」と思ってたんだよな。うわー!最悪じゃん、おれ。自己嫌悪。


「お前、何やってんの?百面相なんかして」

ハルクが部屋に来た。何となく顔を合わせたくなくて、そっぽ向く。


「ふーんだ!」

「ガキかよ。拗ねてんじゃん…」

そりゃ拗ねたくなるよ。おれじゃない“アリス”がいいなんて言われたら。ハルクもあっちが良かったのかな。


「だって、皆、おれじゃなくて、あっちのアリスがいいって言うし。おれ、いらないって言われてるみたいで嫌だった!」

「お前に比べたらまともだったからな、アイツ。セツナもあんなこと言ってるけど、物足りない顔してたぞ」

「ウソだー。本の話して楽しかったって言ってたじゃん」

「最初はそうだろうな。でも、あっちのアリスに毒吐けないって言ってたぜ。お前は吐いても、鳥頭だからすぐ忘れるから」

「それ、褒めてない。貶してるだろ…」

更に頬を膨らませるおれにハルクは、ため息をつく。


「あたしからしたら、あっちのアリスもお前とそんなに変わんないぞ」

「そうなの?」

「女子トイレ入りそうになるわ、本読んでると周り見えないわ、すぐいなくなるし、何もないところで何度も転びかけるわで。見ててヒヤヒヤしたし。お前と同じくらいに目は離せなくて大変だった」

うわー。ハルクが止めてくれて良かった。おれが変態になるところだった。
でも、おれ、あっちのアリスの姿で男子トイレ入っちゃったんだよね…。ごめんね。


「ねぇ。ハルクはおれがいない間、おれに会いたいって思った?」

「バカ。んなわけないだろ。バカなこと言うな」

「なーんだ。嘘つかれたのか。あっちの世界のハルクが言ったんだよ。こっちのハルクがおれを待ってるかもって」

「……ちっ、余計なことを」

「ん?」

小声で何か言ってたけど、何言ってたんだろ?ハルク。


「おれ、あっちのハルクにアリスに会いたい?って聞いたら、笑ってごまかされたんだ」

「あー、なるほど。素直じゃないのはあっちもか」

「ハルク?」

「何でもない。あっちも待ってたと思うぞ。あの危なっかしさなら、心配しないわけがない。特にあのアリスは一人で抱え込むところあったし」

「そっか。ハルクがそう言うならそうかもね。しかし、ハルクはどこの世界でもアリスに振り回されるようになってんのかな?」

「やめろ。あたしはお前の保護者じゃない!少しは心配じゃなくて安心させろ」

「無理だよ。おれはおれだし」

「そうだよ。お前はそういうヤツだよ…」

呆れた顔された。向こうのハルクにも何度もされたっけ。

でも、呆れても、おれの傍にいてくれた。最後にありがとうと伝えられて良かった。あのハルクにはもう会うことはないだろう。それが少し寂しい。

でも、おれの傍にいてくれるのは、今目の前にいるハルクだ。それ以外の誰でもない。離れて気づいた。気づかせてくれてありがとう。


「 」

「ん、何か言った?アリス」

「あはは、何でもなーい」



❰END❱
(2021.12.10)
1/1ページ
    スキ