Geranium
【ハルクside】
「ありがとう、ハルク…」
そう言った瞬間、アリスの体が傾く。まずい。
「アリス!」
慌てて駆け寄り、体を受け止める。…呼吸はある。大丈夫。眠っただけ。
「最後まで人騒がせなヤツ…」
思えば、朝からアイツに振り回された。押し倒されるわ、いきなり抱きつかれるわ、リゼ公と飯食いに行くわ、しまいには男子トイレに入ってくわで…。目が離せない。あっちにもオレいるみたいだけど、半日いただけで苦労がわかる。
「………ん」
「アリス?」
声をかけると、アリスが目を覚ます。しばしボーっとしていた様子だった。
が。
「戻った…」
「アリス?」
「私の体だー!」
オレを突き飛ばすと、アリスは立ち上がって自分の体を触り始め、抱きしめる。
コイツ、オレの存在を忘れてんだろ。
頭にきたオレは、アリスの頬を思いっきりつねった。
「痛い!何するのよ!いきなりつねることないでしょ…」
「あー、本当に元に戻ったんだな。そのままでも良かったのに」
内心はホッとした。態度には絶っ対に出さねーけど。
家まで歩く間、アリスが向こうでのことを話す。向こうのアリスが言っていたのと同じで、やはり性別が違う以外はまったく同じだったらしい。
ただ、一つ腹が立つことがある。
「向こうのハルクはかっこ良かったなー。優しいし、面倒見良いし。ハキハキしてて。あんな友達いたらなーって。ううん、友達になって欲しかった!」
やたら向こうの世界のオレの話ばかりするのだ。性別が違うだけであとは同じだろ。なのに、向こうのオレばかり褒めるって、何なんだよ!
「お前と友達なんてごめんだね」
「ハルクには言ってないし。向こうのハルクにだもの。あーあ。こっちにもいないかな…。ああいう女の子」
「オレもお前よりは向こうのアリスの方が良かった。単純だし、素直だし。お前より扱いやすかった」
「悪かったわね」
「悪いと思ってるなら迷惑料として、オレの好きなモン作ってくれたら、それで許してやるよ」
「……わかった。買い物行くから、一緒に来てよ」
「はいはい」
オレの食べたいモン作ってくれるなら、喜んで行くぜ。
あっちのアリスも悪いヤツじゃないし、見てて飽きないけど、オレにはこっちのアリスが丁度いい。
正直、あっちのアリスはオレには手に負えない。だから、頑張れ。そっちの世界のオレ。
❰END❱
(2021.12.10)
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