Geranium
目覚ましが鳴ってる。んー、もうちょっとだけ寝ていたい。……。でも、そろそろ起きないと遅刻するよな。仕方ない。起きよう。渋々ベッドから起き上がる。
顔を洗いに、洗面所に向かう。あ、顔洗う前にトイレ。トイレに行こうと洗面台にある鏡の前を通る。
ふと映った姿に違和感を覚えた。おれ、髪長かったっけ?自分の髪を触る。すると、肩にもつかないほど短いはずなのに、肩よりも長かった。
え?しかも、洗面台の鏡に映し出されたのは知らない女の子の姿。
「……おれじゃない」
なんで?髪色は同じだけど、それ以外まったく違う。てか、何で女の子になってんの!?鏡を見ながら呆然としていたら、誰かが洗面所にやって来た。
「起きてこないと思ったら、お前、いつまでパジャマ着てんだよ」
おれの後ろにいたのは、おれと同じ学園の制服を着た男。かなり着崩している上にピアス開けたチャラいイケメンがいた。
しっかし、イケメン効果か着崩しても似合ってる。
「早く支度しないと遅刻するぞ」
「……………えーと、どちらさま?」
「……。お前、まだ寝ぼけてんの?」
すごい呆れた顔された!
でも、このイケメン。この子の何なんだろう?お兄ちゃんか、それとも弟か。どっちかわかんねー。それとも親父…はないか。はっ、もしや…
「リク?」
「………は?」
「んなわけないか。おれの知るリクは、黒髪の美少女だし。いくら、リクが男に変わったからって、ここまで変わるわけないかー。あはは!」
「お前、何言ってんの?頭、大丈夫か…?」
「やばい!早く用意しないと遅刻する。ちょっとどいて。イケメン君!」
洗面所にあったデジタル時計見て、トイレ行くのも忘れて、急いで部屋に戻った。
てか、着替え、どーすんの?知らない女の子の裸を見るわけにいかないし。そもそも女の子だから、制服はスカートじゃん。冬になったから、さーむーいー。女の子ってすごいんだな。
あ、今日は休もう。そしたら着替えなくて済む。そうしよう。おれはベッドに戻り、寝ることにした。また寝れば、この夢からも覚めるだろうし。一石二鳥!
「アリス、朝飯……って、何でベッドに入ってんだよ。お前…」
「いやー、具合悪くてさ、今日は休むことにした」
布団かぶって、寝ようとしたら、イケメン君が部屋に入ってきた。てか、今ノックなかったよね?…ま、いっか。細かいことは気にしないで寝よう。
「…じゃあ、あとはよろしく」
「いやいや!お前、元気だろ。オレにはサボるなとか、いつも言ってるくせに…」
「あー、無理無理。急に具合悪くなったから、学校行けない…」
「下手な芝居すんな。ほら、さっさと起きて着替えろ!」
「いや、着替えはもっと無理だし。イケメン君、離して……うわっ!」
イケメン君が布団を剥がそうとするから、必死に抵抗した。でも、力の差がありすぎて、ベッドから落ちた。ひどくない?でも、床に落ちたわりに痛くない。
「……あれ?」
「お前、いきなり…っ!」
目の前にはさっきのイケメン君の顔。そうか。イケメン君が下敷きになってたから痛くなかったのか。わー、近づいてみてもイケメンはイケメンなんだな。はー、おれもイケメンに生まれたかったな。そしたら、リクも少しはおれのこと…
「ちょっ………アリス。いつまで乗ってんだよ。早く下りろ!」
「あー、ごめん。すぐ退くね」
慌ててイケメン君の上からどいた。しかし、イケメン君は起き上がらない。どうかしたのか?
「起きれる?手貸そうか?」
「……オレのことより、さっさと着替えて準備しろよ、バカ!」
そう言って、すぐ起き上がると部屋から出て行ってしまった。何かイケメン君の顔が赤かったけど、大丈夫か?熱出たのかな?風邪?熱から来る風邪もあるしな。おれ、よく喉からきてたな。
はー、休めないなら、着替えるしかないか。クローゼットから制服を探して、下着をタンスから探し出して、なるべく体を見ないようにして、着替えた。鏡見て、おかしなところがないかチェックした。うー。やっぱりスカート、慣れない。スースーする。寒い!
トイレも行ってきた。今行かないとヤバかったし。本当にごめんな。この体の女の子。
鞄を掴み、慌てて階段下りて、玄関に向かうとイケメン君が待っていた。あれ?先に出たと思ってたのに。
「あれ?イケメン君、まだいたんだ…」
「……。お前さ、さっきからオレのことをイケメン君って、呼んでるのはなんだよ」
「え?」
あー、そうか。このイケメン君にも名前はあるよな。でも、おれからしたら初対面だし、名前知らないから呼べない。イケメン君とこの女の子顔は似てないし、義理の兄弟か?よくわかんないなー。
「ごめん。名前、ド忘れてしちゃってさ」
「どうやったら、オレの名前だけを忘れるんだよ。アリスドールにでも記憶、奪われたのか?」
記憶を奪われたというより、中身が入れ替わったというべきかな。ん?今、アリスドールって言っ…。
「あ、飯食べてない」
「あるわけないだろ。お前が起きなかったから、オレも食ってないんだよ。お前のお袋さんは夜勤帰りで寝てるから無理に起こせねーし」
「え、母さんが夜勤?親父ならわかるけど。母さんはいつも〆切やばいーって言いながら、パソコンとにらめっこしてるはずだけど」
「は?……って、急がねーと遅刻する!ほら、行くぞ」
イケメン君に言われて、家を出る。ドアに鍵をかけてから、おれはイケメン君と学校に駆け出す。
が、数分後。
「ま、待っ……は、速い…から…」
「お前に合わせてたら、間に合わねーよ」
てか、イケメン君、足が速すぎる。腕を引っ張られてるから止まれないわ、離してくんないわ。息が出来ない!おれ、元の体に戻る前に死ぬかも。ごめん。親父、母さん、リク。おれはもうダメです…。
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