Bigleaf periwinkle 4




その夜。
部屋にいると、スマホが鳴った。誰だろ?表示された名前はリゼル。

深呼吸をしてから、通話ボタンを押した。



「今日学校サボったリゼルちゃん、どうしたの?」

『ダルかったから行かなかっただけだよ』

「出たよ。リゼルのお得意のおサボり。あはは」


おれはいつものように笑う。
でも、今日は声で笑っても、心までは笑えなかった。大丈夫。そんな簡単には気づかれない。



「……リゼル?」

『お前、元気なくねー?』

「何で?」

『なんつーか、沈んでるっていうかさ…。無理に笑ってね?』


気づかれた?……いや、そんなわけない。今まで誰にも気づかれたことはないし。気のせいだ。



「そんなことないよ!リゼルの勘違いだよ。おれが楽しくもないのに無理に笑うわけないじゃん。楽しいから笑ってんのにー」

『あっそ。勘違いして悪かったな!』


切られた。
通話も終わったから、スマホを横に置く。

しっかし、リゼルって鋭い時あるんだよな。言われるまで気づかなかった。おれ、上手く笑えてなかったんだ。
あの頃の気持ちが出てきてるせいかな。



「……っ」


大丈夫。大丈夫。おれは笑える。あの頃とは違うから。上手く隠さなきゃ。アリスは、いつでも笑えるように演じなく……っ!

まずい。吐きそう!
手を口に覆い、部屋を出ると、おれはトイレに駆け込む。そして、胃の中のものをすべて吐き出す。



「はあっ……はあっ…」


気持ちが悪い。吐いても吐いても治まらない。もう吐くものは何も残ってないのに…。



「……アリス?」


風呂から出たばかりのハルクが声をかけてくるが、返事出来ない。
こんな姿、見られたくない。でも、上手く取り繕えない。



「お前、大丈夫か?」

「…平気。大丈夫、だ、から…」


構わないで。あっちに行って。これはおれの問題だから。一人にして欲しい。
なのに、ハルクはその場から離れない。



「歩けるか?肩に掴ま…」

「いいから!放っておいて…」


ハルクの手を振り払う。ふらつく体を堪えて立ち上がり、トイレのレバーを押して流す。そうして、トイレのドアを閉めて、中にこもった。

だが、ドアの外からハルクが叩いてくる。



「アリス!」

「おれ、平気だから。何ともない!だから、あっちに行って。お願いだから…!」


本当に構わないで。おれはハルクに優しくされるようなヤツじゃないから。



「……わかった」


ハルクがそう言って、ようやくそこから離れた。
気配がないのを確かめてから、おれは声を押し殺して泣いた。




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