Bigleaf periwinkle 4
校門で話すには人の目があったから、移動はしたけれど、おれはエリカと2人でいたくないから、ハルクを連れて行った。
だが、明らかにエリカはハルクの存在が気に入らないようで…。
「ちょっと、私はアリスだけ呼んだのよ!何であんたまでいるのよ!」
「コイツに頼まれたんだ。文句はアリスに言えよ」
「ハルクいなきゃ、おれ帰る!おまえと2人になんてなりたくないし」
何かおれに話があるというのだが、おれにはない。正直もう関り合いたくないのが本音だ。
てか、ナナちゃん…いや、アヤメちゃんと久々に会えて楽しかったのに、こいつのせいで楽しかった気分が一気に飛んでった。
「…わかったわよ。いてもいいわよ。仕方ないから」
「で、今更何の用だよ?」
「……ったわ」
「え、何?聞こえない?」
「悪かったって言ってるのよ!」
え、これで謝ってるの?普通、謝るのってこういう態度じゃないよね。あー。こいつ、プライドは高いからな…。
「昔、あんたのこといじめてたから」
「自覚あったんだー」
「っ、本当に悪かったと思ってるわ!」
全然謝る態度じゃないけど、あのエリカがおれに謝ってる。確かに昔なら考えられないけど。
すると、おれがエリカに言う前に黙っていたハルクが口を開く。
「お前さ、もっと素直になれないのか?」
「な、何よ!私は素直になってるじゃない!」
「どこがだよ。明らかに意識しまくって、素直になれてねぇから。ツンデレかよ…」
ハルク、何言ってんの?
エリカがツンデレのわけないじゃん。ツンデレはデレがないと、ツンデレとは言わないし。こいつはツンツンじゃん。
「お前さ、アリスのこと好きだからいじめてたんだろ?」
「っ!?」
「ハルク、さっきから何言ってんの?そんなわけないじゃん!」
「お前のお袋さんから聞いたことあんだよ。昔、アリスのことが好きなのに素直になれない女の子がいたって話。未だに引きずったままで、お前に似たようなのばっか連れてるんだけど、長続きしなくてすぐに別れちゃうって。それ、お前のことだろ?」
エリカが黙る。ハルクは「…やっぱりな」と小さく呟く。いやいや、好きだからいじめるって小学生の男子がよくやってたよね。うちの学年にもいたけどさ。エリカがおれに?
「エリカがおれを好き?…ないない!そんなわけないじゃん。こいつ、いつも泣いてばっかのおれにひどいことばっか言ってたんだよ?しかも、父さんが死んだばかりのおれに対して…!」
「それはあの時、そうだったなんて知らなくて…!」
「知らないで済むかよ!あれでどんなに傷ついたか、おまえにわかるかよ!!」
「だから、私…」
「今更、謝ったからって許さない!謝るなら、おれにもう関わらないでくれよ」
エリカにそう叫ぶと、おれはそこから離れた。その後をハルクが追いかけてくる。
「アリス、待て」
「……」
「アリス!」
ハルクに腕を掴まれ、立ち止まる。
わかってるんだ。わかっていても、頭が追いつかないんだ。
「…ってる」
「ん?」
「あいつに八つ当たりしたって、父さんは帰って来ないのはわかってる。それに今だっておれのこと、息子のように可愛がってくれる親父もいる。幸せなのはわかってる!だけど、あいつは…」
バっカみたい。お父さん、お父さんって泣いて…。泣き虫。あははは!そんなんだから、お父さんがいなくなったのよ。
大好きな父さんだった。
頭を撫でてくれるのが嬉しくて、もっと撫でて欲しくて、父さんにくっついた。すると、父さんは仕方ないなって笑って。
ある日、父さんが亡くなったって聞いた時、父さんの手に触れた。あの温かかった手は冷たくなってた。もうおれのことを撫でてくれない。それがすごく悲しかった。
「許せるわけない!あんなことを笑って言ったあいつだけを、あいつだけは絶対に許さない!!」
「別に許さなくてもいいんじゃねーの?」
「えっ…」
ハルクの言葉におれは首を傾げた。そんなこと初めて言われた。
「だって、お前は許したくないんだろ?」
「そうだけど…」
「何?お前は許したいの?」
「許したい気持ちもあるよ。でも、やっぱり許せない気持ちの方が強い」
両親が今も健在なあいつにはわからない。父さんを喪った気持ちなんて。
「ほら、帰るぞ。お前の好きなもん、作ってやるから」
「う、うん…」
ハルクに促され、おれは歩き出す。
結局、エリカはおれに何を言いたかったのだろう。
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