Bigleaf periwinkle1
それは珍しく母さんが休みで、家にのんびりしていた時のこと。おれも遊ぶ予定もなく、二人でドラマを観ていた。
これ、今流行ってるドラマだよな。人気女優のナナちゃんがシャニタレのユウトと第一印象最悪で口喧嘩しながらも、次第に互いを好きになっていくという人気漫画原作の恋愛ドラマ。クラスの女子達がよくこの話をしてたな。ダイジェスト版だけど、今更チャンネル代えるのも面倒だったから、そのまま観ることにした。多分、母さんも同じなんだろう。
……。
結構面白いなー。観ていたら、あっという間にエンディング。次の放送は3日後の21時かー。覚えてたら観よう。
「ねぇ、アリス」
「んー、何…」
「好きな子とか彼女はいないの?」
「ぶっは!」
思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。不意打ち、やめて。
「ごほ、ごほ…。いきなり何聞いてくんの!?」
「だって、高校生になっても、ちっとも彼女を家に連れて来ないんだもの。楽しみにしてたのにー。あ、もしかして、男の子が好きなの?」
「思春期の息子に対して、全然配慮なしだね!繊細なんだよ?」
「あなたのどこが繊細なのよ。小学生…ううん。幼児からまったく変わってないじゃない」
「ひどい!成長してるじゃん!!」
「体だけは成長したわね。中身は変わってないわ。残念なことに!」
残念言うなー!悪かったなー!どうせ、いつまで経っても子供だよ!
「昔、近くに住んでたスズラン君なんて、彼女出来たって、スズラン君のお母さんから電話で聞いたんだから!まあ、スズラン君なら、出来てもおかしくないわね。しっかりした子だったし」
スズか。
確かに一度、街で見かけたなー。彼女を連れてたから、声はかけなかったけど。
だって、すげーいちゃついてたし。あの真面目っ子のスズがだよ?恋は人を変えるって、ああいうことかって思った。
「小学生の頃、あなたにちょっかいかけてたエリカちゃん、覚えてるでしょ?」
「いたねー。あいつにはよく泣かされた」
リクがいる前でも平気でおれのこと、いじめてきたんだよなー。そしたら、リクが助けてくれて。
それからおれもあいつにいじめられないように強くなろうと頑張り始めたんだよな。じゃなきゃずっと弱いままだった。そこはエリカに感謝してるけど。
「こないだ男の子と歩いていたの見たんだけど、あの娘は好みが全然変わってないわねー」
「あいつに好みなんてあるんだ?どうせ背の高いイケメンじゃないの?」
すると、母さんはおれを見て、ため息を吐く。
「これじゃあ、モテないはずだわ。エリカちゃんも未だに初恋引きずってたみたいだし。連れて歩いてた子も誰かさんに似てたから」
「ん?エリカのやつ、好きなやついたんだ。おれも知ってるやつ??」
「……」
「な、何?母さん、おれを無言で見るのやめてよ!」
「エリカちゃんも少しかわいそうね…」
だから、何でだよ!意味わかんない。エリカのどこがかわいそうなんだよ。あいつ、おれをいじめて笑ってたんだぞ!
「母さん、紅茶のおかわりは?」
「飲む!淹れて」
「りょーかい」
おれも少ないから、ついでに淹れよう。また淹れ直すのも面倒だし。一緒にやっちゃえ!
「あなたの鈍感さは前のお父さんに似たのね。あの人もそう言うところあったから。優しいんだけど、好意にはすごい鈍いというか…」
「父さんに?」
おれの父さんは、おれがまだ幼い頃に病気で亡くなった。記憶はおぼろ気だけど、いつも優しく微笑んでいたのは覚えてる。
「そう。私も何度も何度も告白しても、全然気づいてくれなくて、苦労したもの!本当に!?あの鈍ちん!でも、好きだー!」
「え?親父は?」
「もち好き!」
なんだ、この母親は(笑)わけわかんない。
「母さんって、好きになったらすぐ告白するタイプなんだね?」
「アリス、恋は奪い奪われなのよ?好きな相手を他の誰かに取られたくないでしょ!」
「それはそうだけどさ…」
おれの好きな人はリクだからなんて、母さんには言えない。好きでも伝えられないこともあるんだよ。
「そういえば、さっき見てたドラマの女の子、名前なんだっけ?」
「ナナちゃんだろ?ナナちゃんがどうかした?」
「何かどこかで見たことあるのよね…」
「今、売れてるからね。CMも沢山出てるし。ドラマも引っ張りだこじゃん。見ない日はないし」
「うーん、そうかな。いや、どこかで…。昔、あなたが一度家に連れて来たことあった子がいなかった?」
昔?昔…うーん。あ!そういえば、保育園の頃に父さんは入院してて、母さんは仕事でおれを迎えに来るのが遅くて、同じように迎えが来ない女の子がいて、二人でよく一緒に遊んだな。
一度だけうちの家に連れて来て、遊んだことはあった。でも、その子は卒園式前に引っ越しちゃったんだよな。
「いたね。名前は忘れちゃったけど」
「その子に似てない?」
「ナナちゃんが?まっさかー」
「そのうちアリスに会いに来たりしてね」
「ないない。そんなドラマみたいなこと…」
そんなことあるわけないじゃん。
でも、あの子、今も元気にしてるかな…。
おれと母さんが話しているところへハルクが入ってくる。
「そろそろ買い物行こうと思ってるんですが、夕飯、何がいいですか?」
「あら、ハルちゃん。あなたはしっかりした子よね。お願いがあるんだけど、うちの子、もらってくれないかしら?」
「え…」
「何言ってんだよ!母さん」
「ハルちゃんみたいな娘になら、安心して任せられるし。あ!ハルちゃんにはセン君がいたんだった。ごめんね?」
「いえ…」
ハルクが困ってんじゃん。てか、勝手におれをハルクと結婚させんな。おれはもっと可愛い彼女が欲しいんだ!リクみたいな…。
「ほら、アリス。ハルちゃんの買い物について行く!セン君は今、せっちゃんと出かけていないんだから。ハルちゃんに、何かあったら助けてあげるのよ!」
「わかったってば!上着取ってくる」
母さんは本当に喧しいよな…。ハルクはおれが守らなくても強いのにさー。おれ、母さんに似てるとこあるかな?なんて考えながら、部屋に向かった。
「お待たせ」
上着取ってすぐに戻ってくると、ハルクしかいなかった。
「母さんは?」
「担当さんから電話あって、部屋に戻った。ほら、行くぞ」
ハルクに引っ張られ、おれ達はスーパーへと向かった。
「ハルクってさ、母さんの前だと全然違うよなー」
「そうか?」
「全然違う!猫かぶってる!おれには凶暴な面ばっかなのに」
「は?それはお前が怒らせることばっかするからだろ」
「ハルクが短気なだけ……って、痛て!」
「悪りぃ。足が勝手に動いたわ」
「絶対嘘だ。短気暴力女!」
「はあ?女好きシスコン野郎が何言ってんだ!?」
道のど真ん中で何でケンカしてんだろう、おれ。これじゃあ、さっきのドラマと一緒じゃん。でも、おれ、恋に落ちるならナナちゃんがいい。
「お前、昔いじめられてたのか?」
「ん?ああ、小学生の頃ね。父さんが亡くなって、泣いてばっかいた時があったんだ。それでよく弱虫って言われて泣かされてたんだ」
「全然想像つかない。昔から今のまんまだと思ってたわ…」
「泣いてばかりだった以外は変わってないよ。母さんにも成長してないって言われたし」
「ふーん。泣き虫だったのか…」
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