Doll Ⅱ




放課後。

はー。今日も友達が出来なかった。
こうなったら部活でも入った方がいいのかな。鞄を持って、教室を出る。

目的もなく、フラフラ歩いていたら、いつの間にか桜の木の下に来ていた。

やっぱりここ、誰もいないな。
前来た時は……って、あの時はミカドいて、泣いてたんだ。

流石に本人には理由を聞いてないけど。いや、聞いてはいけない気がする。でも、あのチャラいミカドが泣くって…何があったんだろう。



「そこで何してんの?アリスちゃん」


振り向くと、ミカドが立っていた。今考えていた人が後ろにいるとは思わなかったから驚いた。



「ビックリしたー。桜がキレイだから見に来ただけだよ。ミカドこそ何でここに?」

「俺?帰ろうと歩いてたら、アリスちゃんの後ろ姿が見えたからついて来ちゃったー」

「そうなんだ………あれ?」


あそこに誰か倒れてる。制服のスカートが見えたから、女子生徒?顔が見えないけど。



「アリスちゃん?」


ミカドを無視して、私は急いで倒れている子の方へ向かう。ミカドも後をついてくる。



「大丈夫!?」


声をかけるが返事はない。すると、倒れてる子の顔を見て、ミカドが首を傾げる。



「あれ?この子…」

「知り合い?」

「同じクラスの子だよ。確かプリムラちゃん」

「え!?」

「アリスちゃん、もう少し周りに目を向けてみたら?ハルクが呆れたのも少しわかったかも」


チャラいミカドに呆れた顔をされた。ひどい!見てないわけじゃないのに…。



「同じクラスの女の子だったら、覚えてるはず、なんだけど」

「アリスちゃん、特定の女の子達しか見てないじゃん…」


そんなこと……あるかも。おとなしそうなグループの子達の方見て、何度か話しかけたりしたけど、上手くいかなくて。



「ま、プリムラちゃんも特に誰か特定の子といるわけじゃないからね」

「そうなんだ…」

「………ん」


倒れていた子が目を覚ます。良かった。



「大丈夫!?」

「………た」


何か言ってる。声を聞き取ろうと彼女の口近くまで耳を寄せる。



「何?」

「お腹空いた…」


その直後に盛大なお腹の音が鳴り響いた。





私達はその後、食堂の方へ移動し、窓際の空いてる席につく。この時間だからか、人はまばらだった。食事も売り切れが多くて、ミカドに頼んで購買の方で適当に買って来てもらった。
多めに買ったはずの食べ物はすべて彼女が平らげてしまった。そんな様子を見て、ミカドは「プリムラちゃん、いい食べっぷりだねー」と笑っていたけれど、私は言葉を失った。その細い体によくあれだけの食べ物がどこに入ってくんだろう。フードファイターなの??


落ち着いてから、どうして、あそこに倒れていたのか聞くと、どうやら食堂まで行こうとしたら、力尽きてあの桜の木の下で倒れてしまったらしい。
でも、食堂行く道のりに桜の木は反対だと思うけど。方向音痴なのかしら?


「食堂と桜の木って、場所が反対よね?どうして、桜の木に行ったの?」

「……桜が呼んでたから」

「え?」

「泣いていたから、向かったの。そしたら、お腹空いて気を失った…」


悪い子ではないけれど、少し変わっていた。話し方も淡々としているんだけど、性格は不思議ちゃんなのかと思っていたが、食事は豪快に食べるし。ギャップが凄すぎる、この子。繊細なんだか、大雑把なのかよくわからない。



「そういえばアリスちゃん、ハルクはいいの?」

「ハルク?」

「きっと探してんじゃない?俺が教室出る時に「あのバカ、またいねェ。すぐいなくなりやがって」って言ってたから、間違いなくアリスちゃん探してたんだと思うよー」


私、別にハルクと帰る約束してないけどな。でも、間違いなくまた怒られる気はする。うん、絶対に怒鳴るわね。



「やーーーっと見つけたー!」


そんな声が食堂内に響く。ほら来た。鬼が来たわ。



「全然見つからねーと思ってたら、こんなとこで何してんだよ。こっちは必死でお前を探してんのに」

「頼んでませーん」

「頼んでませーんじゃねェんだよ。狙われる自覚を持てって言ってんだよ!」

「まあまあ。アリスちゃん、見つかったからいいじゃない。無事だったんだし」


ハルクの後ろからダリアさんも現れた。彼女も探すのを手伝っていたのか。それは悪いことしてしまった。



「何してんだよ、こんなところで」

「プリムラちゃんが桜の木の下で倒れてたから、アリスちゃんと一緒に食堂まで連れて来たんだよ」

「そう!ミカドの言う通り」

「ふーん。そこで寝てるヤツのことか?」


ハルクに言われ、見てみると彼女は本当に寝ていた。え、今さっきまで起きてたのに…。



「プリムラちゃんのことは俺に任せて。アリスちゃんは帰っていいよ」

「え、でも…」


女の子好きなミカドにこの子を任せるのが不安しかないんだけど。だって、寝てる子にも手を出すかもしれないし。



「アリスちゃん、今俺に対して失礼なこと考えてるでしょ?」

「昼間見た出来事のインパクトが強すぎたせいだと思うわ」

「何?お前、ミカドの情事でも見ちゃったわけ?」

「好きで見たわけじゃないわよ!」

「服は脱いでないよ?」

「ふふっ、その後に抱こうとでもしていたのかしら?アリスちゃんが来なかったら…」

「普段ならそうだったかも。でも、今日は気分にならなかったから、どうしようと考えていたから、アリスちゃん来て助かったんだよね」


やっぱり最低だわ!女の敵!!



「ふふっ、その子が心配なら、私が残るわ。タクシー呼んで、家まで送るから。アリスちゃんはハルクと帰った方がいいわよ?それに早く帰らないと雨が降るし」

「え…」

「あとどれくらいで降る?ダリア」

「予想では30分以内ってとこかしらね」

「そっか。アリス。お前、今日は買い物ないんだろ?ほら、さっさと帰るぞ」

「ちょっと引っ張らないで!」


ハルクが腕を引っ張るから、二人に「ごめん。先に帰るね」とは謝ったけど。明日また謝っておこう。



「ふふっ、ハルクも随分過保護になったのねー」

「あれはアリスちゃん限定。他の子にはしないからね」

「ミカドも本当は用があるんでしょ?さっきからスマホ鳴ってるみたいだし。帰っていいわよ」

「んー。まあね。無視したかったんだけど、行かないとそれはそれで拗れそうだからもう行く。ありがとう、ダリアちゃん」

「今度奢ってね」

「りょーかい」



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