Doll Ⅰ




新学期です。私も二年生に進級しました。
……本当ならリクもこの学園に入学するはずだった、のに。

ダメだな。すぐそういうこと考えちゃう。新学期なんだから、新しい出会いもあるだろうし、いつまでも落ち込んではいけないよね。

今日は始業式。クラス替えもあるし、早く見に行こう。


クラスが貼り出されてる場所まで来ると、沢山の同級生達の姿があった。喜んでいる人もいれば、悲しんでる人もいた。
さて、私は何組なんだろう?



「……あった。D組」

「D組か」


今、誰かと同じこと言った気が。しかも、この声は……。



「ハルク…」

「お前もD組なのか。家でもうっせーのに、クラスまでも一緒かよ」

「それはこっちの台詞なんだけど、そのまま返すわよ」


最悪だ。家は仕方ないとしても、クラスまで同じだなんて。
いや、待って。ハルクと同じでもクラスには、新しい出会いがあるかもしれない。そう秘かに期待をし、私はクラス掲示から離れ、新しい教室へと向かった。



「何で一緒に来るの?」

「新しいクラスわかったから、向かってるだけだろ。お前と一緒に歩いてるわけじゃねェよ」


そう言ってるなら、何で隣にいるの?さっさと行けばいいのに。わけがわからない。

そうこうしているうちにたどり着いて、新しい教室に入ると、既にグループが出来ていた。しまった。完全に出遅れた。もう少し早く来れば良かった。



「あれ?ハルクじゃん…」

「ハルハルー!」

「なんだ。お前らもこのクラスかよ。全然代わりばえしねェな!」


隣にいたハルクは知り合いでもいたのか、男子達の元に向かってしまった。ハルクって、誰とでも話せて仲良くなれるんだ。
いや、私だって友達ぐらいはすぐ作れる……はず!

どこかに声をかけようとしてみるが、女子のグループは出来てしまっていて、どこのグループにもなかなか声をかけられない。どうしようかと悩んでるうちに、教室に新しい担任がやって来てしまった。仕方ない。友達作りは後にしよう。

慌てて空いてる席を探していたら、いきなりハルクに腕を掴まれ、隣の席に連れてかれた。



「ほら、そこ座れよ」


助かったけど、腕掴まなくても良くない?他の人にも見られてたし。何人か私のこと、睨んでなかった?

ハルク、外見は良いからモテるんだな。今も突き刺さる視線は痛いが、もう他に空いてる席もないので、仕方なくハルクの隣の席に座った。どうせ後で席替えもするだろうし。



「ハルク、ヒーローじゃん」

「ハルハル、優しー♪」

「……るせェ、バカ」


それから先生の挨拶が始まり、その後クラス内での自己紹介が行われた。注目されるのは恥ずかしかったけど、皆やることだし、何とか無難に終わらせることは出来た。でも、私の番の時にハルクが小声で「借りてきた猫かよ」って呟いたのだけはムカついたけど。しかも、ハルクなんて、最低限な挨拶だけだったくせにー!
全員の紹介を終えてから、先生が口を開く。



「さて、そんじゃあ次に編入生を紹介する。……入って来い」


先生に促され、教室に入って来たのは、大人っぽいキレイな女の子。クラスのほとんどの男子達が編入生の女の子に目を奪われていた。私が男子でも目を奪われるなーなんて思っていたら、隣の席のハルクが小さく悲鳴を上げた。



「……げっ」

「ハルク。あの人、知り合い?」

「ダチ」


そう言われて、納得した。向こうの世界の人達って、性格は置いといて、外見は整ってる人ばかりだもんね。あの人も中身に問題あるのかな。性格キツかったら嫌だななんて考えながら見ていると、編入生の視線はこちらに向いていた。こちらというより、ハルクを見てるような…。



「あら、ハルク。久しぶり。元気そうね」

「久しぶりだな、ダリア…」


編入生がハルクに微笑みながら、手を振っていた。ラセンがいるのに、他にも女の子いたのね。友達って言いながらも…。最低。すると、私の視線に気づいたのか、ハルクが慌て出した。



「アリス、誤解すんなよ!アイツは…」

「言い訳しなくてもいいわよ。第2の彼女でしょ?それとも婚約者?」

「違う!」

「ハルク、めっちゃ言い訳してる!奥さんの前で浮気しちゃダメじゃん」


誰かの言葉にクラス内で笑いが起きる。ちょっと奥さんって、誰よ!いつまでそのネタで引っ張る気なの!私はハルクとはなんでもないんだから。



「お前らが仲良しなのはわかった。が、その辺にしておいて、席替えするぞ」


先生の意見にクラス全員が返事する。席替えはくじで行うらしく、先生が用意してた箱の中に番号が書かれていて、順番に引いていく。どうやら廊下側から1番となっていて、あとはその順番に座ればいいらしい。



「……41番」


私が引いた番号。廊下側から席を数えていくと、窓際の後ろから二番目。席としては、悪くはない。
移動すると私の後ろの席に先客がいた。



「あれ、リゼル?」

「…ん、アリスか」


リゼルも同じクラスだったんだ。でも、自己紹介の時はいなかったような?もしかして、ついさっき来たのかな。



「私、前の席なんだ。よろしく」

「あ、ああ…」

以前に比べると、リゼルも変わったよね。かなり荒れてたのに、今では少しは落ちついたな。そう考えながら、私は席につく。



「……は?リゼ公。何でお前がいんだよ!」

「その台詞、そっくりてめぇに返してやるぜ」


リゼルを見つけたハルクがこちらにやって来た。しかし、相変わらずこの二人は顔を合わせると、これだ。飽きないのかしら。

ハルクが鞄を置いて座る姿を見て、私は話しかけた。



「ハルク。何でそこに座るの…?」

「何でって…。くじ引いたら、ここだったからに決まってんだろ」


ハルクが座った席は、私の隣。何で席替えしてもハルクの隣なの!?



「あら、ハルク。近いわね。よろしく」

「ダリア」


私の前の席は、例の編入生だ。近くで見てもキレイな子だ。ジーっと見ていたら、編入生と目が合う。彼女は微笑みながら私に話しかけてきた。



「あなたがアリスちゃん、よね?噂は聞いてるわ」

「はあ…」


きっとろくな噂じゃないんだろうな。誰に聞いたのかわからないけど。



「ハルハル!ぼく、ハルハルの前の席!」

「エンジュ。お前が前かよ。うるさくなる予感しかしねェ…」


ハルクの前の席は、去年ハルクと同じクラスの男子。外見は可愛い顔してるけど、話せば話すほど幼く見える。



「…うっせー」

「あー、不良のリゼルだ!」

「不良って言うな!」

「またまたツンツンしちゃって~。仲良くしようよ!ぼくはエンジュ。よろしく、ゼルゼル」

「よろしくしねー!てか、ゼルゼルってなんだよ」

「きみのあだ名に決まってるじゃん★」

「変なあだ名で呼ぶな!」


珍しい。リゼルに睨まれても全然怖がってない人は。ある意味、すごい。というか、からかってるよね?あのリゼルを。
二人のやりとりを呆然と見ていたら、エンジュがこちらに近づいてきた。



「あー!ハルクの彼女だ!」

「違う!!私はハルクと付き合っていません!」

「そうなの?よくハルハルと一緒にいるし、同じ家に住んでるからそうだと思ってた」


どうして、私がハルクと付き合わないといけないの!もうハルクがちゃんと否定しないから。隣のハルクを睨むが、素知らぬ顔されただけ。



「そうだ!ワンダーちゃんに聞きたいんだー」

「ワンダーちゃん??」


エンジュに尋ねてみたが、答えれくれたのはハルクだった。



「エンジュは基本的に誰にでもあだ名つけて呼ぶんだよ。文句言っても無駄」

「そうなんだ。……えっと、何かな?」

「ハルハルとどこまでいってるの?」

「ハルクと?それ、どういう意味?」

「キスした?それともその先のことまでした?」


予想外の質問に私は言葉を失った。私と入れ替わるようにハルクが声を上げる。



「エンジュ!お前、何聞いてんだよ!?」

「えー、いいじゃん。じゃあ、ハルハルに聞く。ワンダーちゃんとどこまでした?」

「アリスとは、そんな関係じゃねェよ」

「またまた!そんなこと言ったって、目撃情報があるんだからー。しらばっくれてもムダだよん」

「目撃情報?」


すると、エンジュがポケットから自分のスマホを取り出した。



「誰もいない教室でワンダーちゃんとハルハルが抱き合ってたとか泣いてるワンダーちゃんにハルハルがキスして涙を拭ったり、街で二人が手を繋いでデートしてたり、家族公認のお付き合いだとか。………こんな感じ?」


聞いていたハルクが頭を抱えた。抱えたくなる気持ちは痛いほどわかる。
だって、ほとんど間違ってる情報ばかり。間違ってない情報も一部混ざってるけど、やっぱり見た人は誤解してる。これは、いくら否定しても噂がなくならないわけだわ。

というか、この情報がラセンに知られたら、絶対に私が責められる。あー、面倒な未来が見えるわ。



「…ったく、別にそいつらが一緒にいるぐらいで騒ぐ必要ねーだろ。マジくだらねー」


そう言い、リゼルが立ち上がる。



「リゼル。どこいくの?まだ…」

「帰る。じゃあな」


鞄を持って、リゼルは教室を出て行ってしまった。相変わらずだな。昔に比べれば、答えてくれるだけマシなんだろうけど。少し前だったら、無言でいなくなってたし。





始業式も終わり、帰る準備をしていたら、黒板の方でハルクが数人のクラスメイト達と談笑していたのが目に入った。中には女子の姿もある。女の子達はハルクにお近づきになりたいんだろう。

準備を終え、席から立ち上がると、誰かが横にやって来た。



「あれ?ワンダーちゃん、ハルハルのこと待たなくていいの?」

「待ちません。私は彼女でもないし。それじゃ」


エンジュに挨拶して、教室を出た。
早く終わったことだし、久しぶりに図書室に寄って行こうかな。新しい本とか入ってるだろうし。よし、行こう!



着いた早々、図書室のドアに今日は閉まっていることが書かれている紙が貼ってあった。
当然、鍵もかかっていて、入れない。残念。また別の日に来よう。

渋々、元の道を歩いていたら、グラウンドに満開の桜が目に入った。キレイ。桜って今の季節だけだし、もう少し見て行こうかな。そう決めると、私は外へ向かった。

グラウンドは下校中の生徒達でいっぱいでゆっくりとは見れない。私は中庭に向かうことにした。



案の定、誰もいない。
みんな桜には興味ないのかな。そのお陰で独占出来るからいいけど。歩み進めていくと、一番奥にある桜の木の下に誰かの後ろ姿が見えた。

何してるのだろうと、一歩踏み出した時、そこにいた彼がこちらに振り返る。その顔を見て、私は驚いてしまった。何故なら、その人は涙を流していたのだから。泣いてる。

その人も私がいて、驚いていたらしく、泣いたままで動揺していた。どう声をかければいいかと考えていたら時、



「アリス!お前、こんなとこにいたのかよ」

「ハルク…」


振り返ると、ハルクがいて、その少し後ろには編入生の姿あった。



「お前な、少しは自分が狙われてるってことを自覚しろよ!何かあってからじゃ遅いんだぞ」

「ごめん。でも、今そこに…」


再び桜の木の下に目を向けると、誰もいなかった。



「あれ…?」

「どうした?」

「あそこに男の子がいたんだけど」

「オレが来た時、お前しかいなかったぜ」


え、確かにいたのに。桜を見て、泣いてる男の子が。まさか幽霊?



「ふふっ、ハルクはアリスちゃんしか見えないのね」

「違ェし。こいつは危なっかしいんだよ!ほら、帰るぞ。アリス」

「うん…」


促され、私は桜の木から離れた。でも、確かにいたんだけどな。


アリス達がいなくなってから、彼は再び姿を見せる。桜を見上げながら、悲しそうに呟く声は、風に流された。



.
1/6ページ
スキ