Ⅱ(前)




駄菓子屋に来た。
おれん家から、3分くらいのところにあるしな。ガキ共は既に店内で駄菓子を選んでいる。早いなー。

てか、涼しい。
おれ、ずっとここにいたい。冷房の下で突っ立ったままでいると、耳を引っ張られた。



「おめーは何してんだ?ルビー」

「痛たた!あら、ウッチャン。お元気?」

「お元気?じゃねーわ。んなとこで、突っ立ってんなら外に出ろ。邪魔だ!」

「ひどいわ!おれもお客よー!」

「駄菓子を買わない客は客じゃねーんだよ。おめーの場合は冷房で涼しんでるだけだろ」


ちぇっ。バレたか。
この人はウッチャン。名前はウグイス。ファミリーネームは忘れた(笑)歳は、おれの7つ上の23歳。おれが小学生の頃はよく遊んでくれた。今も似たようなもんか。

口はすげー悪いし、態度もかなりでかい。てか、おれの周り、意外に多いのよ?こういう人。こんなんだから、サフィとも仲が良いの。一緒になって、おれのこと、いじめてくるからね。この人達は。


でも、文句言いながらも、色々とやってはくれるのよ。面倒見も良いから。それを本人に言うと、殴られるから言わないけど。素直じゃないからね、ウッチャンは。



「ウグイスさん、こんにちは」

「よぉ。ペリドット。相変わらず、ガキ共のおもりは大変だな」

「そうですね」

「ちょっとウッチャン!ガキ共の中におれも入ってない?」

「お前は図体がでかくても、中身はガキだからな」


何なの!皆、おれに対しての扱いがひどすぎる!もっと優しくしてくれてもいいのよ。
てか、優しくしてー。



「そうだ。ルビー。そういえば、お前、今日誕生日だろ?これ、引いてみないか?」

「何これ?」


ウッチャンが近くにあった箱から、何かを取り出し、おれに見せてくる。



「占い付きの菓子だよ。菓子はチョコ味のクッキーだ。お前、チョコ好きだろ?」

「好きだよ。でもさー、何でおれにやらせるの?女の子向けじゃない?」

「確かに。女の子向きじゃないんですか?フォーチュンクッキーみたいな」


同じように見ていたペリドットが不思議な顔をしながら、ウッチャンに聞いていた。



「それに近いかもな。でも、意外にこの占いが当たるって評判みたいで、なかなか問屋にないんだと。うちの親父が行った時にたまたまあって、向こうの人に勧められたから、試しに入れたんだと」

「売れてんの?これ」

「意外にな。ほら、ルビー。引いてみろ」

「えー」


いつもなら、買わないと突っ返していた。でも、今日は何となく引いてみたい気分。



「んじゃあ、引いてみる」

「わかった。誕生日だから、タダでいいぞ」

「あと、アイスも追加して!」

「仕方ねー。いいぞ」

「やった!」


早速、箱に手を突っ込み、その中の一つを取った。お菓子から占いの紙を剥がし、開けてみると───


“今日、出会った異性が運命の人”

と、書かれていた。
はあ?運命の人?なんだー、この占いは…。



「なんだ、これ?」

「ルビー、なんて書いてあった?」


ウッチャンやガキ共がおれの占いの紙を覗いてきた。



「運命の人?今時なくない?」

「ないよ。しかも、ルビーにだぜ?一番ないし」

「てか、ここにいるのは、男しかいないじゃん。異性って女だろ?」

「この占い、外れることもあるんじゃね?」

「失礼だな!これからあるかもしんねーだろ」


全員がないと否定をしやがった。ひどくない?おれにも出会いとかあるし。

その紙をズボンのポケットに突っ込み、おれは食べたい駄菓子を探すことにした。アイスも忘れないように買わないと。


それから買った駄菓子を駄菓子屋の前にあるベンチでガキ共達と座りながら、食べていた。暑いけど、ここは日陰だし。ちょっとだけ涼しい。
ちなみにおれはアイスキャンディーを食べている。やっぱ暑い日にこれは最高!駄菓子はこれ食べてからな。

ふと隣のペリドットを見る。何か見たことないお菓子を食べていた。



「ペリちゃん、何食べてんの?」

「ん?新商品の駄菓子だ。食べるか?」

「マジ?ちょーだい!」


口を開けると、ペリドットは口に入れる。噛んでみると、不思議な味だった。



「これさ、一体、何味なの?」

「不思議味としか書いてない」

「不思議味!?よく買う気になったね…」

「何か惹かれて…」


ペリちゃん、普段は真面目だけど、たまに変なところあるからな…。昔から理解出来ない部分があったし。一緒にいるのは楽しいからいるけど。ま、本人がいいなら、いいけどね。

アイスキャンディーを食べ終えて、自腹で買った駄菓子を食いながら、商店街の方を眺めていた。そしたら、見覚えのある後ろ姿を見つけた。

マリーゴールド…?
二人の男と一緒みたいだけど、何か揉めてない?



「いいじゃん。一緒に行こうよ!」

「さっきから、暇そうにしてるしさ」

「違います!私はお店を探しているだけで…」

「じゃあ、オレらが連れてってあげるよ」

「そうそう。親切だよなー、オレら」

「いりません。手を離してください!」


あれって、ナンパか。ナンパ以外ないな。
マリーゴールドって、学園では人気あるけど、あまり声をかけられないんだよな。高嶺の花っつーの?一番の理由は、婚約者のドルチェがいるのから。
でも、今は隣にドルチェの姿はない。



「……」

「どうかしたか?ルビー」

「ペリドット、これ頼む」


おれは駄菓子の入った袋をペリドットに預けて、走り出す。後ろからおれを呼ぶ声も聞かず。



「やめろ!」


男達とマリーゴールドの間に割り込むように入る。



「……っ」

「何?お前、いきなりやって来てさ。邪魔すんなよ」

「関係ねー奴は引っ込めよ!」


そのうちの一人が邪魔だと言わんばかりにおれのことを退かそうとする。くそ、負けるか!



「絶対に退かない!お前らこそ、目見えてんのかよ!マリーゴールド、嫌がってんのもわからないのかよ!」

「はあ?」

「何こいつ。マジ頭く………っ!!」


相手の股間を思いっきり蹴飛ばす。おれも男だから、気持ちはわかるが、ここは譲れない。もう一人がおれに掴みかかってこようとしたから、思わず手を掴み、そのまま背負い投げた。
こないだ、体育の授業で柔道だったんだよね。ちゃんと受けといて良かった。役に立った!

よし。相手が動けないうちに逃げよう。おれは呆然としているマリーゴールドの手を掴む。



「行こう!」


二人でその場から駆け出す。しばらくはここに戻って来れないな。





【END】
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