Ⅰ
最近、ラピスと一緒にいても、何だかラピスを遠くに感じる。俺と一緒にいても、心あらずと言うべきか。
「ラピス?」
「……え、何?アメジスト」
「直にクリスマスだし、そろそろ予定を決めないか?」
三年前。
婚約した時から、クリスマスはいつも一緒に過ごしていた。約束なんかしなくても、それが当たり前。だから、今年も一緒だと思っていた。
クリスマスは、ラピスの誕生日でもあるから。俺にとって、誕生日をお祝いして、ラピスを独占出来る幸せで最高の日だ。
「ごめんなさい。クリスマスは予定が入ってしまって、今年は一緒に過ごせないの」
「……そうか。なら、仕方ない、な」
「ええ、本当にごめんなさい…」
それなのに、クリスマスに約束を入れるなんて、ラピスらしくないと思えた。毎年、一緒だったのに。
たまに二人きりになって、キスをしようとしても、何度も避けられた。そういう雰囲気になっても、ラピスは「気分じゃないの」と謝る。
ラピスが好きだから、一緒の時間を過ごしたくて、俺はめげずに彼女に声をかける。しかし、ラピスは何かにつけて断るのが増えた。
ラピスに避けられているのか?
俺はラピスに何かをしたのだろうか?いくら考えても、した覚えはない。
それなら、どうして?ラピスに聞いても、答えてくれない。
「浮かない顔だね」
「え」
振り返ると、モモがいた。
モモ・ラブラドライト。
うちの親の秘書の子供で、小さい頃からの知り合いでもある。モモの見た目はおとなしそうに見えるが、実は明るくて、元気だ。物事も白黒ハッキリさせたい性格でもある。
「何でもない」
「あ。もしかして、ラピスラズリにクリスマスを断られたの?」
「……」
「やっぱり。顔に出ていたよ?アメジスト」
そんなに顔に出した覚えはないんだが。
だが、いつも俺が悲しかったり、寂しかったりする時は、必ずモモが声をかけてくるような気がした。
隠しても仕方ないか。俺はモモにラピスのことを話すことにした。
「ラピスの様子が最近、変なんだ」
「変?」
「ああ。デートに誘っても断られることが増えているんだ」
「え。じゃあ、あの噂は本当なのかな?」
「噂?」
モモが「しまった…」という顔をした。おそらく無意識に呟いていたのだろう。モモも顔に出やすいじゃないか。
「アメジスト。怒らないで聞いてね?」
「怒らないから、話してくれ。ラピスのこと、なんだろう?」
「うん。あのね、ラピスラズリ。特待生の男の子とよく一緒にいるって」
「特待生?ああ、一般の枠から入った学費が免除されるっていう…」
「そう。名前が確か、宝石の……ルビー!ルビー・マチェドニアっていったかな。かなり明るくて、神経が図太い男子って、聞いた!」
図太いか。確かに図太くなければ、この学園には入らないだろうな。しかし、その名前、セレストからも聞いたことがあるような気がする。
まさか、俺がいるとわかっていながら、ラピスに近づいてるんじゃないんだろうな。
一度、そいつを調べてみるか。
その時。
「シトリン様!」
近くで男の声がした。
声のした方に行ってみると、ドアが少し開いていた。
覗いてみると、薄暗い部屋に男と女がいて、女は俺の双子の妹であるシトリンで、ベッドの上に座っていた。男の方はシトリンの玩具の一人だろう。そいつがシトリンの足に縋る。だが、シトリンは鬱陶しいかのように男を蹴飛ばす。
「だーめっ。あなたは私のいうことをきかなかったでしょ?もう相手にはしないわ」
「シトリン様、何でもしますから!お願いします」
「何あれ…」
モモが信じられないという顔で、見ていた。
おそらくシトリンも俺とモモが見ていても、気にしていないのだろう。むしろ、見られる方が燃え上がるタイプだしな。
俺はモモの腕を取り、そこから離れた。
「アメジスト。シトリンと一緒にいた子達は何!?」
リビングに連れて来ると、モモは俺にそう聞いてきた。
「あれはシトリンの玩具だ。親がたまに金で買ってくるんだ。あいつの遊び相手としてな。飽きたら、捨てる。ゴミのようにな」
「ひどい…」
モモは比較的まともな思考だから、シトリンのやることに理解が出来ないと言った顔をしていた。
シトリンは元から普通ではないし、飽きやすいからな。今いる玩具も6人くらいだが、そのうちの2人には飽きているみたいだから、近いうちに捨てるだろう。
そういえば、その中の一人だけシトリンに従わないのがいたな。確か、ターコイズとか言ったか?シトリンは面白いって、笑っていたが。おそらく気にいる何かがあるから捨てないに違いない。
「アメジストは何とも思わないの?」
「思わない。興味もないからな」
モモは何か言いたそうにしたが、口にしなかった。
「モモ。シトリンの玩具には手を出すな。お前に何かがあったら大変だ」
「でも!」
「シトリンは自分の邪魔する人間に対して、容赦しない。お前に何かあったら、俺も心配なんだ。だから、あれは見なかったことにしてくれ」
「……わかった」
モモは素直にいうことを聞いてくれた。モモもシトリンの性格は知っている。
シトリンは男には大目にみるが、同性相手には容赦しない。前にもシトリンに男を取られたと騒いだ女がいたが、その女の体も心も相当傷つけて、病院送りにしたことがある。
他の女はどうでもいいが、モモをあんな目に遭わせたくはない。
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