Special Christmas
今日は12月25日。クリスマス。
そして、私の誕生日でもある。
今日、明日と休日だからと、ルビーがお泊まりデートに誘ってくれて、楽しく過ごしていた。クリスマスだから、街はカップルや家族連れと人が多かったけれど、そこは気にならなかった。
だって、明日の夕方までずっとルビーと一緒にいられるから。
手を組んで歩くだけでも楽しかった。
私が笑い、ルビーも笑う。もう幸せだった。
それなのに。
トイレから出て、待ってくれているルビーのところに向かうと、ルビーが誰かと話していた。しかも、あろうことか、ルビーの腕に絡みついているのだ。誰なの。あの人。むすっとしながら、その様子を見ていたら、ルビーが私の姿に気づいて、声をかけてくれた。
「ラピス!」
「お待たせ。ルビー。そちらの方は?」
私が来ても、ルビーの腕から離れない女に少しムカッと来たが、顔に出さないように振る舞う。
「ああ。紹介す…」
「はじめまして!レピドライト・ローズマダーです。ルビーがお世話になってます!」
「はじめまして。ラピスラズリ・マリーゴールドといいます」
紹介しようとしてくれたルビーの言葉を遮り、挨拶してきた。
それよりもルビーがお世話になってますって、何?あなたに言われる筋合いじゃないんだけど。この人に対して、どんどんと苛立ってきたが、私はそれを笑みで隠す。
「うっわ!可愛い。こんな人とルビーがデート出来るなんて…。あ!もしかして、レンタル彼女?」
「違う!レンタル彼女のわけないだろ。ラピスはおれの彼女!!」
嬉しい。ルビーは私を彼女と言ってくれた。彼女という言葉に私は密かに感動していた。
だが、その子は信じない。ケタケタと笑った。
「あはは!もう嘘つかないでよー。ルビーは昔から鈍感過ぎて、女の子達にフラれまくってたじゃん」
「え?おれ、モテたこと一度もないけど。サフィかペリドットと間違えてないか?」
「あの二人ほどじゃないけど、ルビーも人気あったんだよ?ほら、昔さ…」
二人にしかわからない話を目の前でされる。
私の知らないルビーとの過去を楽しそうに話すその人に私は、苛立ちを通り過ぎて、腹が立っていた。
だって、さっきから、私をチラチラ見ながら勝ち誇った顔をしているのよ。実はこの人もルビーが好きなんだろう。じゃなきゃ、ルビーに抱きついたりなんかしないはずだ。
というか、ルビーも何でこの人の腕を振り払わないの?優しいけど、こういう時にその優しさはいらないわ。私のことは彼女と言ってくれたのに…。私以外の人を触らせないでよ。
頭にきた私は、ルビーとその人を引き離す。何が起こったかわかってない二人をそのままに私は、ある行動に出る。
「ルビー」
「ラピス。どうかし…」
「っ!?」
その人の目の前でルビーにキスした。私のものだとアピールするため。人前だろうが、もう関係ない!ルビーは私の恋人なんだから。
「ラピス…」
「……っ、ルビー。余所見しないで、私だけを見て。ね?」
そう言って、再びキスをする。周りの声が聞こえたけれど、気にしない。ルビーも最初は戸惑っていたけど、私に応えてくれた。
「ルビー、大好きよ」
「ラピス。おれも大好きだよ」
私達は互いしか見えていなかった。
二人の世界に浸っていたら、ようやく我に返ったのか、あの人が「ちょっと!」と私達に声を上げた。
振り向くと、私に対してだけ、睨んでいたから、私は見せつけるようにルビーの腕に抱きつく。ふふ、お返しよ!
「あら、まだいたんですね!静かだったから、もう帰ったとばかり…」
「わざとらしい。あなた、私に見せつけて…」
「私とルビーは恋人同士なので。この通り、ラブラブなんです。だから…」
私はルビーから離れて、彼女にしか聞こえないように囁く。
「(ルビーは諦めてくださいね、ローズマダーさん)」
「っ!?」
彼女は無言でその場から走り去って行った。やっぱりルビーのことを狙っていたわけね。
ふと周りを見れば、野次馬が増えていたので、私もルビーの腕を掴んで、そこから離れた。
しばらく歩いてから、ルビーが急に立ち止まり、私に頭を下げてきた。
「ごめん!ラピス」
「私の方こそ、ごめんなさい。ルビーの傍に私以外の女の子がいるのが許せなくて、つい…」
「ううん。おれも同じことされたら、そういうことしちゃうかもしんない。本当にごめん!これから気をつける!」
「ルビー…」
ああ、この人を好きになって良かった。私は間違ってなんかない。
色々な人達にアメジストよりもルビーを選ぶなんて、おかしいと言われてきた。
お母様やおばあさまは、ルビーのことを気に入ってくれたのだが、お父様やおじいさまは未だにルビーのことを許してくれない。ルビーが来て挨拶しようとしても、理由をつけて会おうとしない。私が会うだけでもいいからと、何度も頭を下げてお願いをしてもだ。
ルビーを認めない理由はわかっている。お父様もおじいさまもアメジストを気に入ってたからだろう。反対におばあさまは、アメジストのことは気に入らなかったらしい。後からこっそりと教えてくれた。だから、うちにルビーが遊びに来た時は、毎回お母様と二人で歓迎してくれた。
そんな私も彼の両親とは未だに会えていない。ルビーのご両親は、仕事でなかなか家に帰って来ないと何度かルビーから聞いたことがある。挨拶したいのだが、時間が不規則でなかなか会えないままだ。ルビーは私のことを話してくれているそうだが、両親が私をどう思っているかまではわからない。
「ルビー」
「ん、何?」
「ルビーのご両親と会いたいの。いつになったら、会える?」
「うーん、今年はもう無理かも。仕事が立て込んでるみたいでさ。母さんにメールしたら、次帰って来るのは来年になっちゃうって返事あったから」
「そう…」
今年も会えないのか。来年こそは会いたいな。ご両親がいなければ、ルビーはいなかったのだから。
「実はうちの両親もラピスに会いたがってるんだ」
「えっ…」
「写メ送ったんだよ。この子が彼女なんだーって。あ!ごめん。勝手に送っちゃって…」
「それは気にしてないわ。それでご両親は…」
「こんな可愛い子が彼女!?って、ビックリされた。エイプリルフールは終わってるぞって、おやじはいうし、おふくろも驚いていたけど、喜んでくれた」
「……本当?」
「うん。だから、帰って来る時はすぐ連絡してって頼んどいた。その時はラピスに絶対、連絡するから」
私は嬉しくてルビーに抱きついた。うちのように反対されると思っていたから。
「連絡来たら、絶対に教えてね?」
「うん。おれも二人とラピスを会わせたいし…」
「早く会いたいわ。……あ、そろそろ買い物に行きましょう。ねぇ、何が食べたい?」
「ラピスが作ってくれるものなら、何でもいい」
「あら、そんなこと言うと焦げたものを食べさせちゃうわよ。それでもいいの?」
「いいよ。焦げた料理でもラピスの作ってくれたものに違いないんだから」
ルビーは笑ってそう言った。
もう本当にこの人は…。無自覚に私を甘やかすんだから。
「やっぱりだめ。ルビーにはおいしいものを食べてもらいたいから!」
「えー。気にしないよ?おれ」
「だめったら、だめ!私のプライドが許さないわ」
その後、私達はスーパーへ向かい、仲良く店内を回りながら、カゴに品物を入れ、会計を済ませた。
ルビーの家に帰宅して、早速、キッチンで今買ってきた食材で料理を開始した。ルビーも手伝ってくれて、思ったより早く料理は出来た。
それから二人で仲良く食事した後に、ルビーが用意してくれたケーキで私の誕生日をお祝いしてくれた。
「ハッピーバースデー、ラピス。これ、おれからの誕生日プレゼント」
「ありがとう。開けてもいい?」
「うん!」
包装紙を外して、箱を開ける。
入っていたのは、青色の宝石のネックレス。青色の宝石は、もしかしてラピスラズリ?私の名前と同じ。そんなわけ…いや、でも、この宝石は。私はネックレスをジーっと見ていたら、ルビーが申し訳なさそうに言ってきた。
「もしかして、気に入らなかった?」
「え、違うわ!」
「去年は大したものをあげられなかったから、今年は奮発したんだけど」
「去年のプレゼントも大事に使っているわよ」
ルビーが私にくれた初めての誕生日プレゼントなんだから。だけど、ルビーは首を振る。
「ラピスは優しいね。それでもおれが納得、出来ないんだ」
「ルビー…」
「誕生日プレゼント探してる時にそのネックレスを見つけたんだ。これだと思って、財布の中の持ってるお金を全部足しても、金額は全然足りなかった。だから、一度は諦めた。他にも見つかると思って…。でも、他のプレゼントを探していても、これだって思うプレゼントが見つからなかった。貯めてたお金をおろして、それを買った。ラピスに絶対似合うと思ったから」
私に似合うと思って、これを買ってくれたの?私と同じ名前のラピスラズリのアクセサリー。
「なのに、おれ、本当にプレゼント選ぶの下手だよな。ごめん。ラピス…」
「謝らないで。私、気に入らないなんて、一言も言ってないわ」
「だけど、おれ、かっこ悪い…」
ルビーが珍しく弱気だ。いつもあんなに明るくて、前向きなのに…。
でも、ルビーのどんな姿でも幻滅なんかしない。むしろ、可愛いと思った。私だけしか知らないルビー。私のことだけ考えてくれた彼に愛しさが溢れて、私はそんなルビーを抱きしめる。
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