序章

ぼくの世界は、この屋敷の中だけ。
そして、ぼくは夜が嫌いだった。あの暗闇は、悪魔を連れて来るから───。


今日もここに彼女が来る。ぼくは怯えながら、待たなければならない。早く朝が来て欲しい。

だけど、夜はまだ始まったばかり。



「コーラル」

「……」


天使のような微笑み。だが、彼女は天使なんかじゃない。黒髪に赤い目。ぼくには、彼女が悪魔に見えた。

すると、彼女がぼくの頬に触れる。



「今日も可愛がってあげるわ、私の可愛いコーラル」

「……っ」


怖い。怖い。逃げ出したい。
またぼくは、この人に奪われる───



「返事は?」

「……ありがとうございます。シトリン様…」


返事と聞かれても、彼女は肯定しか受け付けない。そんなぼくの言葉に満足した彼女は、口角を上げる。



「やっぱりあなたが一番綺麗だわ。私のお気に入りのお人形さん」

「……っ…」


怖くて涙がこぼれた。
それなのに、彼女は楽しそうに笑った。





「……んっ…あ……はぁ」

「すっごく可愛いわ。コーラル…」


嫌だった。でも、逆らえなかった。ぼくには守る存在がいたから。その守るべき存在のためにぼくは、今日も耐えた───。



.
1/4ページ
スキ