序章 side A

自分の部屋に戻ろうと歩いていると、具合が悪そうな人を見つけた。

……ハルク様だった。


正直、私はこの人が苦手だった。
しかし、具合悪そうな彼を見捨てることは、出来なかった。





「あの、大丈夫ですか?」

「っ……近寄んな!」



なっ…!人が心配してるのに、何なの!その態度。本当に腹が立つ。

私、この人に嫌われてるみたいだし、もうこれ以上は放っておこう。





「……わかりました。お邪魔して、失礼しました」



ハルク様に背を向けて、歩き出す。

もう声をかけるんじゃなかった!具合悪そうに見えたから、声をかけたのに。何なのよ。あの態度は!

突然、背後から誰かに抱きつかれた。





「………え」



すると、首筋に痛みが走った。痛い。それに熱い!噛まれたところがすごく熱い。





「……っ…痛っ!……うっ」



というか、誰がこんなこと…!
不意に相手が私から離れたから、倒れそうになったけど、何とかこらえられた。

首を触ってみると、ぬるりとした感触。手には血がついていた。私はおそるおそる後ろを振り返った。


そこには、口元を血まみれにしたハルク様がいた。





「…何…して…」

「……うまい。今までこんなうまい血を飲んだことねェ。だから、さっきからすげー甘い匂いがしてたのかよ」



彼の口元についた血は、私のだ。リク様には毒になって、合わなかった私の血。一体、何が違うのだろう?

それより、甘い匂いって何?そんな匂い、まったくしないけど。





「甘い匂い?あなた、何言って…」

「もっと飲みてェ…」



そう言うと、ハルク様はまた私に抱きついてくる。抵抗しようにも力が強すぎて、全然敵わない。首筋を噛まれた。熱い!痛い!





「やだ!離して!………ん、ぅっ」

「はぁ…っ……ん…っ…ふっ」



嫌だ!嫌だ!
リク様以外に触れられたくない!!

離したいのに、全然離れてくれない。どんなに抵抗しても、まったく効かない。

私の目から涙が溢れた。もうだめだ。私はこのままこの人に血を吸われて、死ぬんだ。


やっとリク様と恋人になれたのに…。

でも、私はリク様を殺してしまうから、生きてても仕方ないか。


もう……だめ…っ…。



意識を失う寸前、私の目元に柔らかい何かが当たったような気がした───。



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