使い魔 Ⅲ
ある日。
ふと気になったことがあり、私はリク様に尋ねてみる。
「リク様。そういえば、使い魔の子達ってお風呂に入ったりするんですか?」
「お風呂ですか?うーん、入らないと思います」
「じゃあ、普段は一体どうしてるんですか?」
「自分達でキレイにしてるとは思うんですけど、詳しいことは僕にも…」
「それじゃあ、クロッカスくんの体を洗ってあげてもいいですか!?」
リク様が目を丸くした。私、何か変なことを言ったのだろうか。クロッカスくんを洗ってあげたいって言っただけなんだけどな。
「使い魔は自分の体を触られることを嫌がるのが多いんですよ」
「そうなんですか」
そうだよね。自分のご主人様以外には触られたくないよね。
「主にさえも触らせたくないのも中にはいますから。その場合は、嫌がる使い魔を無理やり自分の配下にした者が多いですね」
「ひどい…」
「一部ですけど、中にはそういう者もいるということです。クロッカスはアリスさんに警戒を解いてるから大丈夫だとは思うんですけど…。まずはクロッカスに聞いてみましょう。……クロッカス」
「キュッ」
リク様に呼ばれて、クロッカスくんが姿を見せる。リク様がクロッカスくんに聞いてくれている。
あー、ドキドキする。警戒は解いてくれたけど、やっぱり私に洗われるのは嫌かな。
「アリスさん。クロッカスに聞いてみたら、是非とも体を洗って欲しいそうです」
「え、本当ですか!?」
「はい。ね、クロッカス」
「キュッ」
クロッカスくんが私に頭を下げる。なんて礼儀正しい子なの!
「自分では届かない場所とかもあるみたいで、洗ってくれるなら、お願いしますと言ってます」
「わかりました!」
使い魔であるクロッカスくんのサイズ的にお風呂場の浴槽は大きすぎる。リク様も同じ考えだったみたいで、倉庫に何かないか一緒に見に行くことになった。
すると、倉庫にビニールプールがあった。他に使えそうな物はなかったので、これを使用することになった。もしかして昔、使っていたのかな?クロッカスくんには少し大きいが、あまり水を入れなければ、溺れないはず。しかし、場所を取ってしまう。それならばと、外で洗ってあげることにした。
クロッカスくんは、最初こそは少し怖かったのか体を強張らせていた。だが、気持ち良くなってきたのか、だんだん私に身を預けるようにしてくれた。可愛いな…。
「クロッカス、安心してますね」
「そうですね。最初はちょっと怖がっていたみたいですけど」
クロッカスくんを洗い終えて、リク様に渡す。リク様はタオルでクロッカスくんの体を拭いてあげる。
「良かったね。クロッカス」
「キュー!」
その様子に私は癒された。素敵な光景だわ!
すると、私の頭に何かが乗っかる。私の頭に乗っかってくるのは一匹しかいない。
「キュッ!」
「アガットくん、どうしたの?」
「何してるんですかって聞いてますよ」
「クロッカスくんを洗ってあげてたんだよ。アガットくんも入る?洗ってあげるよ」
なんてね。そんな簡単に洗わせてくれるわけないか。
「キュッ!キュッ!」
「アリスさん。彼も洗って欲しいみたいですよ…」
「え!?」
「キュッ!!」
アガットくんは洗ってと言わんばかりに鳴く。
「私が触っても平気?水とか怖くない?」
「キュッ!!」
「アリスさんになら構わないと言ってますよ」
「わかった。ちょっと待っててね」
アガットくんは私の頭からおりて、近くに飛び降りた。私はビニールプールの中にあったお湯を流し、ホースで軽く洗い流す。再びお湯を入れて、少したまったところでホースを止める。それから待機しているアガットくんを呼ぶ。
「おいで。アガットくん」
「キュッ!」
アガットくんが私の腕に飛んでくる。体を掴んで、ビニールプールに入れると、先に体を濡らす。アガットくんは黙ってされるがままで、気持ちいいのか「キューッ…」と鳴いていた。ふふっ、可愛い。
石鹸をネットで泡立ててから、アガットくんの体につけて、洗い始める。
「お客様、お痒いところはありますかー?」
「キュッ!」
「気持ちいいって言ってますよ、アガット」
「ふふっ。そうみたいですね」
アガットくんを洗っていたら、ふと視線を感じた。見てみると、使い魔の子が二匹いた。
「あれ?オーキッドくん…と」
もう一匹がわからない。黄色い目をした子だ。一瞬、アンバーくんかと思ったけど、興味津々で見ていたから違う。尻尾をパタパタさせてるし。
「リク様。オーキッドくんの横の子は?」
「ああ。タスクの使い魔のメイズですね。珍しい。この二匹はあまりライとタスクから離れないんですけど」
「……キュッ」
「えっ」
いつの間にかビニールプール近くにアンバーくんもいた。洗われているアガットくんと会話でもしているのか、キュッ、キュッと鳴いていた。
更にまた別の方向にも使い魔の子が二匹いて、一匹は緑色の目、もう一匹は紫色の目をしていた。最初はクロッカスくんと思っていたが、彼は今リク様の近くで使用したタオルをかごに入れていた。ということは、まだ別の子だ。
「ドラとメアの使い魔までいます。兄弟全員の使い魔が集合してますね。どうやら話を聞きつけてきたんでしょう」
「え、どうやってですか…?」
「使い魔同士でもテレパシーが使えるんですよ。おそらくアガットがしたんだと思います」
「キュッ!」
正解とでもいうようにアガットくんが返事した。こんなに揃うとは思わなかった。……ん?
「リク様。ご兄弟の使い魔って、全部で何体いますか?」
「7体ですね」
「数えてみると1体、多いんですけど。私の気のせいですかね?」
「え?……あっ」
「どうしました!?」
リク様が使い魔達を見て、声を上げる。
「父さんにも使い魔が3体いるんですが、それが1体混ざってます」
「え!?」
ここの当主の使い魔!?気難しい子なのでは…。しかし、何故その子がここに混ざっているんだろう。アガットくんが呼んだわけでもなさそうだし。アガットくんを見ると、否定するように首を横に振ってるし。
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