Dora Ⅰ
「はは……すげぇだるいや……」
捨てられた猫ってこんな気持ちなのかもな。
……ボク、ちゃんと食事取ってるのに。
認めたくねぇけど、噂のアレなのか?
「ドラ?……どうかしたのか?」
「……何でもねぇよ」
「そう……」
「……リク兄はもう平気なの?」
「あぁ、今のところはね」
それを聞いて安心した。
リク兄が仮に死んだら、アレを嫌でも認めなきゃいけねぇし。
「そんじゃ、ボク……いく……」
不自然な程、軽い足取りで歩き出す。
このまま天国まで行ったりして、ははっ。
「……はぁ……マジで天国行きそう……」
視界が一気に奪われる。
まるで掃除機で生気を吸われてるような……
「……くっ…………そ……」
遠のく意識の中、誰かに頭を掴まれた。
暫くすると、口の中に何かが──
何……しやがんだ……
やめろ……やめろ、やめ……ろ……
声にならない叫び声……
「あ……うぅ……」
必死の抵抗は呆気なく終わった。
そりゃそうだ……もう、身体中……どこにも力入んねぇ。
はは……ボク、死ぬんだな……
力が抜けたと同時に口内の何かに牙が食い込んだ。
「……んっ……」
口の中に流れてくる、生温かいモノ──
あ……何これ。
すげぇ、甘い。
もっと、もっと──
「ドラ?」
「……カル──」
「心配した。……さっき擦れ違った時、顔色が悪かったから……直ぐに応急処置を…………ドラ、呑んだのか?」
「え?」
「凄く、顔色が良くなっている」
言われてみれば身体中が軽い。
普段より、調子がいい。
「……夢じゃ、なかったんだな……ボク、運命の血に巡り合ったかも」
「何だって?」
「顔は分かんねぇけど、匂いは覚えてるから」
「まさか相手の事、何も知らずに血を呑んだのか?」
「……ボクの意思じゃねぇし」
……説教くらうのもダルい。
今、すこぶる元気なわけだし……
ボクにも本当に運命があるっていうなら、美人に間違いねぇって。
「向こうが運命に気付いたのかもな……ロングヘアに胸もそれなり、けど恥ずかしがりや。そんなヤツかもな」
「それって──」
「さあね」
「おい、ドラ! 軽い気持ちで踏み込むといつか酷い目に──」
だから、説教はダルいんだって。
だから敢えて、言ってやった。
誰も彼も、あの女の事を話題にするとムキになる。
面白いくらいに。
「さてと。少し外の風に当たろっかな……ははっ」
ほんっと、身体が軽い。
最高な気分──
「ふふ、与えた血は貴方を……貴方達を破滅へと導く……そう、呑めば呑むほど……濃くなっていくの──」
そう呟く、彼女の存在をまだ誰も知らない──
END.
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