Karuro Ⅰ




「ねぇ、苦しくないの?」
「……えぇ」
「欲しくないの?」
「……僕は……貴女がいなくても生きられますからね」
「……強がりばっかだね、カルロは」


──また、この夢か。
一時期は全く見なかったのに、最近はまた見るようになった。

彼女は僕の──


「リク。少し、いいかな」
「珍しいですね、構いませんよ」


この夢を見ると、必ずリクと話をするようにしている。


「──それでね、アリスさんは……」


リクと彼女の微笑ましい話を自分の中に取り込み、自分と彼女に置き換える。


「アリスさん、そう言って笑うんです」


悪いね、リク。
僕はラストシーンで彼女を殺めるんだよ。


「…………僕の正体、告げるべきか悩むんです。彼女の事を知れば知る程、未来を考えれば考える程に……」
「僕なら言わないよ」


そう言って、ある事ない事を次々と吹き込んでいく。
普通の人間がお伽噺みたいな話を信じるのか。 
普通の人間が血を好んで吸わせてくれるのか。
普通の人間が化け物と何年、何百年と生を共にするのか。

そして、最後に一言──


「彼女をどれだけ信じられるのか、じゃないかな」


と、言った。
すると、リクは──


「ありがとう。決心がついた」


そう言った。
それは僕の狙い通りだった。

その先の展開は想像以上だった。
まさか、ハルクまで巻き込むとは思わなかった。


「ねぇ、アリスさん」


リクの愛飲ドリンクに少しず睡眠薬を入れ、空白の時間を作った。
そして僕の力を使い、“アリス”とリクの関係に亀裂を入れた。
その事に誰も気付いていないと思っていた。

しかし──


「……カルロ。アリスに何をした?」
「……何の話かな、ハルク」
「とぼけんなよ!」


力を使って誤魔化そうとした瞬間、ハルクは意識を手放した。


「始まりつつあるのか、ハルクも。父さんに報告しないと」


そう言って、ハルクの耳の後ろに噛みつき味を確かめる。
誰も気付くことのない、小さな傷で。


「……また変わった?……リクも変わっていた。彼女……そうアリスも変わっていた。ライやドラ、タスクの方はどうかな?」


皆、少しずつ変化があると“兄”として嬉しい。
血は……争えませんね。





END.
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