Haluku Ⅲ
・
・
・
「あら、本当。物が落ちただけね」
「え…」
お風呂場には誰もいない。床にブラシが落ちていただけだった。それからすぐ大家さんは部屋を出て行った。他の部屋の住人にも確認しに行ったんだろう。それにしても、ハルク様は一体、どこへ。帰ったのかな。
「……マジで危なかった」
「…っ!?」
振り返ると、ハルク様がいた。いつの間に私の後ろにいたの!?
「どこにいたんですか!」
「お前の風呂場にいたら、狭くてさ、身動きしただけで、ブラシ落としちまって。そしたら、お前の足音じゃないのがこっちに来るから、少しの間だけ姿を消したんだよ」
「吸血鬼って、姿を消せるんですか?」
「少しの間だけならな。ま、結構力を使うからあんまやらねェけど」
はあー。追い出されずに済んでホッとした。本当にだめかと思ったよ。
「てか、腹へった。何かねェの?」
「ハンバーグの残りなら……って、いつまでうちにいるんですか?早く帰ってください。アガットくんは明日帰しますから」
「……る」
「何か言いました?」
「オレもここに泊まる」
「何で!?帰ってくださいよ!ここ、男子禁制ですから」
「バレなきゃいいだろ?」
「良くないです!私のベッドしかありませんし!」
「そんな声を出してる方がまたあの大家が来るぜ」
私だって好きで大声を出してないわよ!
リク様もまだ入ったことないのに、何で!?ハルク様が泊まるのよ。
「早く飯。腹へった」
「もうわかりました!」
仕方なく、食事を用意した。さっきの分の残りを焼いて、サラダ、スープ、ごはんも追加して、ハルク様に出した。
「食事を食べたら、お屋敷に帰ってくださいね。それでは、私はお風呂に入りますので。食器はそのまま置いといてください」
そう言って、私はお風呂場の隣にある洗面所に入って、ドアを閉めた。
一時間後。
お風呂から出ると、ハルク様に出した食器がない。洗ってくれたのか、キレイに片づいていた。
帰ったのかな?
そう思って、ベッドの方を見ると、アガットくんの寝てるベッド横で座り込んで眠っていた。
帰ってなかったんだ。元から帰る気なかったみたいだしな。というか、このまま寝てるといくら吸血鬼でも風邪を引くんだぞー。
少し近づくと、ハルク様の寝顔があった。意外に幼い。しかし、家で寝る方がゆっくり寝られるのでは?何で帰らなかったんだろう。
私はベッドにあった毛布をハルク様の体にかけてあげた。風邪をひかれても困るし、ここは私ので我慢してもらおう。
今日はベッドで寝れないから、ソファーで寝よう。クローゼットを開けて、余分に置いてある毛布を取り出す。
ソファーを倒して、平らにするとベッドになった。あまり使わないけど、このソファーにしといて良かったわ。
電気を消して、私も寝ることにした。
「……おやすみなさい」
.