Haluku Ⅰ




「オレ……何して──」


目の前で倒れるアリス。
服は引き裂かれ──


「ハルク、またヤっちゃったの?」
「……カルロ? “また”だって?」


理性が……
段々と理性……保てなくなってる、のか? 


「……覚えていないんだね……彼女の事は僕に任せて、部屋に戻るんだ」
「あ、ああ……」


リクに兄が倒れた日。
後ろからアリスに襲いかかっていた。
あの日、だけじゃなかったって事かよ……


「……くそッ」


このままじゃオレ……

──ただのバケモノになっちまうじゃねェか
──



.


「大丈夫ですか、アリスさん!」
「……リク様、すみません……最近、体調が優れなくて……」
「その傷……」


噛み痕?……回りに瘡蓋があるのに、中心部は真新しい……
屋敷内の誰かが、アリスさんを……?
まさか、ね……
  

「え?」
「いや……何でもないですよ」


運命が僕達を引き裂こうとしている?
……いや、そんな運命を信じるものか……そんなもの──



.




「家を出るって?」
「……ああ。カルロにだけは伝えておこうと思って」
「随分、急だな。まるで何かを恐れているような──」
「……此処にいると、見たくねェもん見ちまうからな」
「それは彼女の事かな?」
「さあな」
「……何なら、殺ってやろうか?」
「何言って──」


カルロが発する殺気は中途半端なものじゃなかった。
コイツ、本気で──?


「……何てね。リクとハルクにとっての大切な人だから、直接手は出さないよ」
「何でオレまで入ってるんだよ」


てか、今……
“直接手は出さない”って、言わなかったか?


「違った?……僕には──」 
「とにかく俺は此処を出て行く」
「父さんなら、こう言うと思うよ。“禁断症状に苦しみながら死ぬ気か”と」
「……オレに対しては言わねェよ」
「うん、それもそうかもね」


アイツは普段は完全放置の癖に。
束縛……違うな。
……アイツは自分の意思に背くとなると、容赦ない。
何でもしやがる──

けど、これでアリスからもアイツからも──


「ねえ、ハルク。アガットは一緒じゃないのか?」
「……そういえば、アイツどこに──」
「探し物はコレか?」


声に背筋が凍り付く。


「何処へ行くつもりだ?」
「……何で……お前が此処に──」


カルロが一瞬、笑みを浮かべたような気がした。

くそッ……嫌な予感しか……しねェ──





END

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