Riku Ⅰ

「アリスさん。もう少し休んでいた方が…」

「大丈夫ですよ!あまり休んでいると、皆にも迷惑かかってしまうので」


彼女は真面目な人だ。
だから、休める時は休んで欲しいのだが、彼女はすぐに仕事に復帰していた。

包帯はもう取れていたが、まだ彼女の首には、少し大きめの絆創膏が貼られていた。きっとまだ噛み痕が残っているのだろう。


僕じゃない別の誰かの…。





「リク様?」

「いえ、なんでもありません。でも、無理はしないでくださいね」

「はい」

「何かあったら、僕を呼んでください。すぐに駆けつけますから」

「ありがとうございます、リク様」


彼女が嬉しそうに返事してくれた。だって、僕達は恋人なのだから。

周りに誰もいないのを確認して、彼女を抱きしめた。



「アリスさん、好きです」

「私も好きです、リク様」


いつまでも一緒にいたい。
名残惜しいが、そろそろ離れないと。



「また後で、アリスさん」

「はい。また後で!」


僕達は少しの間だけだが、毎日二人の時間を作り、会っていた。場所は毎日違う。バルコニーだったり、中庭だったり、書斎だったりと変えている。

今日は僕の部屋で過ごすことにした。

二人で部屋で楽しくお茶をしていると、僕の使い魔であるクロッカスが僕の肩におりてきた。



「キュッ…」

「クロッカス」


姿を見せるなんて珍しい。
いつも僕が一人でいる時はよく姿を見せるが、誰かがいる時は命令がない限りは現れない。まして、人間であるアリスさんの前に出てくるなんて…。



「わあっ、可愛いですね、この子!」

「キ、キュウ…」


アリスさんに可愛いと言われて、照れてる。クロッカスがこんな表情を見せるなんて、僕はつい驚いてしまった。



「クロッカス、照れてるみたいです。あまりそういうことに言われ慣れてないので」

「そうなんですか?」

「はい。僕達もそういった感覚はないので」

「クロッカスくん、か…」


そう説明すると、アリスさんはクロッカスの頭を撫でた。すると、気持ち良かったのか、そのまま丸くなって寝てしまった。

本当に珍しい。クロッカスが素直に体を触らせて、すんなりと寝てしまうとは…。



「リク様、他にも使い魔はいるんですか?」

「いますよ。兄弟にも父さんにも。ヒト型にもなれますし」

「ヒト型!?じゃあ、この子も…」

「はい。ですが、自分からなる子と命令しないとならない子に分かれますね。クロッカスは何か仕事がないとヒト型にはまずなりません」

「そうなんですね。私にもいつかあなたのヒト型を見せてね?」

「キュッ!」


さっきまで寝てたのに、起きた。ここまで反応するとは思わなかった…。



「ふふ、アリスさんは気に入られたみたいですね。クロッカス、結構人見知りが激しいんですよ」

「嬉しいです!こんな可愛い子なら、もっと仲良くなりたいですね」

「使い魔も性格がかなり違うんです。素直な子もいれば、ひねくれた子もいますから。クロッカスも僕には素直ですけど…」

「そうなんですか?使い魔にも色々いるんですね」


その後は使い魔の話だけで終わってしまった。
ま、いいか。たまには…。

しかし、それ以降、クロッカスはアリスさんがいると必ず姿を現せるようになった。

可愛いと言われて、よほど気に入ったんだろう。
アリスさんもクロッカスを可愛がってくれるからいいか。



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