Alice Ⅰ
【side H】
パンケーキを食べていたら、横にアガットが来た。どうやら作ってもらった自分の分のパンケーキを食べ終えたようだ。皿には何も残ってなかった。アガットは甘いものが大好きだからな。
あとアイツが作ってくれたからもあるんだろうけど。
「キュッ!」
「……そうだな」
アガットが良かったねと言ってきた。
昔、苺が好きだと言ったことはある。しかし、今のアイツは知らないはずだ。
それなのに、アイツは無意識にオレのパンケーキに苺を沢山乗せていた。
本人は不思議そうな顔をしていたが。
最初は何で忘れているのかと思っていた。
でも、オレのことを忘れているのは、きっと親父が関わっているせいだ。親父は人間が嫌いだから。吸血鬼のオレと人間が仲良くしてることを許すわけねェから。
だから、コイツからオレに関する記憶を全部消したんだ。
いくらコイツの中から記憶を消したって、オレの中にまだある。今まで生きていた中で一番幸せで楽しかった日々が。
アガットもコイツをちゃんと覚えていたし、優しくされたから姿を見せてる。じゃなきゃ、人間になんて姿は見せねェし。
……………それにまた会えた。
まさか、オレの運命の血の相手がコイツだとは思ってもいなかったけどな。
ちょっと出来すぎて怖ェ。
というか、血を吸ってから、何故かアイツの考えることがわかるようになっていた。遠くにいたらわからないけど、目の前にいると、ほとんど丸わかりだ。
アガットの行動に可愛い、可愛いって思う一方で、オレは全然可愛くないと言ってるし。可愛くなくて結構だ。こっちは可愛いなんて思われたくねェからな。
「よし!出来た!」
自分の分のパンケーキを作り終えたらしい。丁度フライパンから皿に乗せていた。
「パンケーキか?」
「そうです!でも、私のは少し厚めのものにしました。クリームは乗せたから、ジャムをつけよう。あ!冷蔵庫にブルーベリーがあったはず」
アイツが冷蔵庫に向かう。
そこにあったパンケーキは、オレ達に出された薄いものではなく、かなり厚さがあった。まだクリームしか乗ってないが、うまそうだ。それをジーッと見ていたら、同じことをアガットも思っていたようだ。互いに無言で頷くと、俺達はフォークを手にし、そのパンケーキを食べた。
うまっ!クリームだけでもうまい。アガットもパクパクと食べていた。
「ジャムがあった!これでやっと食べられま……あー!!」
アイツが大声で叫ぶ。皿にあったはずのパンケーキがないからだ。それは既にオレとアガットの腹の中。
「私のパンケーキ!」
「また作ればいいだろ?生地が残っ…」
「今ので全部使っちゃったんですよ!もうないです!!ひどい!鬼!悪魔!ひとでなし!」
「悪かったって!」
「食べ物の恨みはすごいんですからね!!」
怒ったアリスは、しばらくの間、オレとはまったく口をきいてくれなかった。
でも、オレと共犯であるアガットとは普通に会話をしていた。何かずるくねェ?
【END】
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