Prologue




「すんげー、マヌケ面」
「……誰?」


屋根の上に誰かがいた。


「誰、じゃねェ。ハルク様だ!」


ハルクと名乗った男が私の目の前に着地した。

黒に身を包んだような格好。
左耳に十字架のピアスが一つ。
髪は短髪で茶色がかった黒髪。
歳は、18くらいに見える。


「……“心ーイノチー”は、大切にするもんだろ?」
「“心ーイノチー”……?」


ハルクがニヤリと笑って、スージィに近付く。


「ボクノジャマヲスルノカ?」
「あぁ」
「ナラバ、シマツスル。アリスハ、ボクダケノモノダァァアアア!!」


スージィから黒い煙が吐き出され、リクを包んで……

リクの“心ーイノチー”と呼ばれたものが段々と煙で黒みがかっていく。


「リク!」
「チッ。ヤベーな……」


ハルクが私の手を掴んだ。


「離し──」
「ヤツが来る」
「…………ヤツ?」


私は、目を細めて煙を見つめる。

すると、人影が二つ見えた。
一人はスージィ。
もう一人は、リクだった。

私は、リクに駆け寄ろうとしたがハルクに抱き止められる。


「何す──」
「ヤツだ……」
「違う。リクだよ……」
「中が違うんだよ!」


言ってる意味が分からないよ。


「……始まる……」
「始まる?」
「……いや、何でもねェ……」


ハルクは難しそうな顔をして言葉を濁した。
「……リクの事?」
「……見ない方がいい」
「リクがどうかしたの?」
「…………」


ハルクは何も答えようとしない。


「……離して」
「……見ない方がいい」
「いいから離して!」


私は、ハルクの腕を抜ける。


「リ……ク?」


そこで目にしたものは、あまりにも残酷なものだった。


「……オマエは用済みダヨ」
「がは……っ」



一瞬、何が起こったのか分からなかった……

だって……
リクの拳がスージィの腹部を貫いていたから……


「ご馳走様……とても、マズカッタヨ」


スージィは、煙になって跡形もなく消えた。


「でも、オマエの“心ーイノチー”だけはオイシカッタヨ」


拳に纏わりつく血を舐めながら、リクは私を見た。


「……いやぁぁぁああああっ!!!」


やめて……
リクで……
リクの体で…………


「そんなこと……しないでよ……」


リクは笑顔が可愛くて、優しくて……

人の痛みだって知ってる……

こんな奴がリクのはずない──



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