Prologue
「…………眠れない……」
あれは本当にスージィだったのか……
天井を見つめて溜め息をつく。
「……!」
“アリス”……
誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。
「誰……?」
私はカーテンを開ける。
ちょうど月が雲に隠れるところだった。
「……雨、降るのかな?」
窓を開ける。
すると、淀んだ空気が流れ込んでくる気がした。
「何か……不気味……」
窓を閉めようとした、その時だった。
「ボクノ……アリス──」
「……スージィ……?」
窓の外にスージィが浮いていた。
さっきの出来事が夢じゃないと思い知らされる。
「うぐっ」
窓を閉める間もなく、スージィに首を掴まれてしまった。
「苦し……やめ……」
「アリスハボクダケノモノダヨ。ダレニモワタサナイ」
そう言ってスージィが顔を近付けてくる。
「アリス。アイシテイルヨ」
「や……だ……っ」
やだよ……
私は……
私は──
「リク……!」
スージィと唇が重なる寸前、聞き覚えのある声が聞こえた。
「手を離せ」
リクだ。
そして、リクは私とスージィの間に割って入る。
リクは後ろ手に箒を持っていた。
「かはっ………………ハァ……ハァ……っ」
スージィから解放された私は呼吸を整える。
「姉さん、大丈夫?」
「……リク」
私は頷いて、リクを見た。
リクが来てくれた……
張り詰めた糸が途切れて、足の力が抜ける。
そのまま私はリクに倒れ込んでしまう。
リクは私を優しく抱き止めてくれた。
「リク……怖かった……怖かったよぉ……っ」
リクにしがみついて泣く私の頭をリクが暫くの間、優しく撫でてくれた。
「もう大丈夫だから、泣かなくていいよ」
そう言って、リクは私の瞳にたまる涙を人差し指で拭ってくれた。
「キヤスク、アリスニサワルナ」
「あんたに姉さんは似合わない」
「え?」
「四年間、姉さんが泣いているのを見たことが無かった。それなのに──」
「ウルサイ……」
「あんたにだけは渡さない」
リクは持っていた箒を構えた。
リクの手は、小刻みに震えていた。
「ジャマ……スルナァ!!」
スージィが叫ぶと同時にリクに襲い掛かる。
「うわあっ!」
「……リク!」
運動が苦手なリクが避けれるはずなかった。
リクは壁に叩きつけられてしまう。
「リク──」
私は、言いかけて言葉を飲み込んだ。
スージィの顔が目の前にあったから……
「アリスハボクノダヨ……」
スージィは不気味に笑ってリクの方に歩いていく。
私は安堵するも、すぐさま我に返った。
「やめて、スージィ! これ以上、リクを傷つけないで!!」
「イヤダネ──」
遠くで雷が鳴る。
すると、雨が降ってきた。
「うぅ……っ」
スージィはリクの前に立った。
そして体内から“何か”を取り出して私に見せた。
雷が“何か”を照らす。
“それ”は、淡いピンク色でハートの形をしていた。
「やめて……」
何かは分からないけど、“それ”は大切なものだと感じる……
失ってしまったら、もう戻せない。
そんな気持ちにさえなる……
スージィが、リクの“それ”を食べようと大きく口を開けた。
「スージィ、やめて!」
もうダメだ。
そう思った時、事態は急変する。
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