Prologue




「リク、さっきの話の続きなんだけど──」


言いかけた時、ママの声が聞こえてきた。


「二人とも、ご飯よ!」
「姉さん、行こう」
「……うん」


腑に落ちないまま、私は食事の席についた。
今夜は、パスタだ。

夜ご飯は、パパも一緒。
パパの名前は、ナカジ。
責任感が強くて優しい。
そんなパパは、飲み物の新開発の仕事をしている。


「アリスは本当にリクが好きだなあ、はっはっは!」
「勘違いしないでよ、パパ!」


当たっているから恥ずかしい……


「リクも幸せねえ! お姉さんが優しくて美人で」
「ちょ、ママ──」
「本当にそう思うよ、母さん」
「え?」
「良かったじゃないか、アリス」
「う、うん……」


動揺が隠せない。

リク……
そんなこと言ったら、私……期待しちゃうよ?

私はリクを見つめた。

その瞬間──


「きゃあっ!」


ガシャンと音を立てて強風が吹き抜けて窓ガラスが割れる。
ママが私を庇ってテーブルに頭を打った。


「アリス、無事か!?」
「うん! ママも気絶してるだけで命に問題はなさそうだよ!」
「そうか、良かった」


パパは安堵の表情を見せた。


「でも、一体……?」
「烏かなんかの仕業だろう」
「片付けなきゃだね」


と、窓を見る。


「……え?」


窓の外に、スージィが息を荒げて立っていた。
……違う、私を見つめている。

私はリクの部屋での事を思い出す。


「……同じだ……」
「アリス」


スージィが呟くと再び、強風が吹き抜ける。

私は、とっさにリクにしがみついた。


「うわあ!」
「パパ!」


パパは壁に叩きつけられて意識を失ってしまった。

私は、スージィを睨んだ。
すると、スージィはゆっくりと口を開く。


「アリス……君は弟が好きなの?」


否定はしたくなかった。
だけど、スージィに……
家族に……
リクに知られたく無かった──

嫌われたくないから。
避けられるのは嫌だから……


「……違う──」
「こんなにも君が好きなのに…………イヤだ……イヤだ……」
「……スージィ?」


明らかにスージィの様子は変だ。

何かに取り憑かれているみたい……


「……姉さんの友達なの?」
「うん……だけど──」
「アリス、君は僕のモノなんだ…………ボク、ノ……ああぁぁぁああああ!」


スージィが黒い煙に包まれていく。
……何だか、凄く怖い……


「姉さん、大丈夫だよ」


リクが優しく私の手を握ってくれた。
リクの手は温かくて、気持ちを落ち着かせてくれる。
……そんな気がした。


「アリス……」
「ひっ!」


煙が消えると、スージィは薄ら笑いを浮かべて立っていた。
そして、“何か”を体内から取り出して食べ始めた。


「スージィ……?」
「……姉さん、見ちゃ駄目だ」


リクは目隠しをするように私を抱き締めた。
心地悪い音に私は、ただ耳を塞ぐことしか出来なかった。
嫌なものは耳を塞いでも聞こえてくる━━


「う……ああぁぁぁああああ──」


スージィが雄叫びに似た声をあげた。
私は恐怖に目を瞑る。

暫くして声が消えた。
同時にドサリという音が聞こえた。
私は恐る恐る、目を開ける。

すると、夢から覚めた気分になった。
スージィの姿はなく、室内も何事も無かったかのように元に戻っていた。
もしかしたら、本当に夢なのかもしれない。

だけど、胸騒ぎがする。



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