Doll 27-Intruder
「ママ、手伝うね」
「ありがとう、アリス」
「今度の休み、家で一緒にお菓子を作る事になったんだ」
アリスは今日、学校であった事を話した。
「それは良かったわね」
「うん。何を作ろうかなって考えているんだけど……」
「マフィンはどう? あなたが私達に振る舞ってくれたじゃない。あの時の味は今でもよく覚えているのよ」
「え?」
“あの子が笑顔で嬉しそうに食べていたから”
その言葉にアリスも、言った張本人でもあるナクルも驚きを隠せない。
「やだ、私ったら……いもしない子を……」
「疲れすぎだよ、ママ……」
「ふふ。でも、もう一人家族がいたら賑やかね。男の子とか」
「弟か……可愛いだろなぁ」
談笑しながら、二人は肩を並べて料理を作る。
「──それじゃあ、仕事に行ってくるわね」
「行ってらっしゃい」
アリスは母を見送ると、歌を口ずさみながら階段を上っていく。
上機嫌だったアリスだが、ふと足が止まる。
「……隣に部屋なんてあった……かな」
恐る恐るドアに手を伸ばす、アリス。
次第に足が小刻みに震え出す。
「…………なん……で?」
震える手を握り締め、一気にドアを開く。
「おかえり、帰ってきたんだ?」
そこにいたのは、ラセンだった。
「……どしたの、アリス?」
「う、ううん……何でもない」
「もしかして、ご飯出来た?」
「そ、そうなの……」
震えるアリスの身体を抱き締め、ラセンが言う。
「一緒に食べよ、アリス」
アリスはゆっくりと頷いた。
「そう言えば、久しぶりの学校はどうだった?」
「記憶が曖昧な割には色々と覚えてたよ。身体が覚えてたっていうのかな」
「授業もついていけたの?」
「うーん、そこは少し自信ない……」
笑い合う、アリスとラセン。
だが、アリスの笑顔はぎこちない。
それを悟ったラセンは話題を変える。
「アリス、お菓子は作らないの?」
「え?」
「前はよく作ってたな……って」
ラセンは困ったように笑った。
「次の休み、友達と作るんだ。ラセンにもお裾分けするね」
「楽しみにしてる。ハルクにもあげるんだろ?」
「え……ハルク……?」
「あ、いや……その…………」
アリスの顔が次第に引きつる。
「ごめん……忘れて?」
そして静かに会話は途絶えた──
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