Prologue Ⅲ
屋根の上で空を見つめている、ラセン。
「……兄貴、あたし──」
言い掛けて、気配を感じ振り向く。
「ラセンって、言ったか?」
「誰?」
「セツナの……主──」
「師匠だ」
クロノの言葉を遮り、ゲッカが言った。
「師匠……あ、兄貴がお世話に──」
「世話になったのは、こっちだ」
「そういう事。故に礼を言いに来た」
「お礼なんて……兄貴が世話になったんだから──」
「そんな事はどうでもいいんだよ。礼を言う為に来たんじゃねぇってことな」
「え?」
「悪いな。アタイの力じゃ……その傷は消せないんだ」
クロノはラセンの“心-イノチ-”を指差し、言った。
「傷?……あぁ、これか……いい、消せなくて。兄貴が……セツナが此処にいるって証だから、さ」
「そうか」
「あの、さ……その代わり、兄貴はあんた達のところで何してたのか教えてほしいんだ」
「聞いてどうする?」
ゲッカは低い声で言った。
「あたしの知らない兄貴のこと、少しでも知りたいだけ」
「……知らない方がいい事もあると思うが」
「もう後悔したくないんだ」
「へぇ。流石はセツナの──」
クロノの言葉にラセンは涙を流す。
「……ありがと……っ」
──“流石はセツナの愛した女だな”──
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