Prologue Ⅲ




「ん……」


目を開けると見慣れた天井。 
身体は金縛りみたいに動かない。
動かそうとすると何かに身体が震えだす。
深呼吸一つ、心を落ち着かせて……視線を動かす。
──血塗られた部屋が見え……


「──え?」  


あれだけ荒れた夜が……何事もなかったかのようにとても静かで……
目が覚めた時、あれだけ血生臭く真っ赤に染まった部屋が……
リクの血さえも消えていた。


「夢……だったの?」


そう、夢だったらいいのに。
夢だったら、悪夢でも構わない。
──でも現実だったのかも、良く分からない。


ふと、何かが転がっていた。
手を伸ばして、やっと掴む。
掴んだ瞬間、金縛りが解けた。

同時にフラッシュバックに襲われる──


「いや……やぁ……ッ…………はぁッ」


掴んだものが何か分からないまま、机の引き出しにしまった。

ふと時に懐かしい写真が目に留まった。
リクとの写真……?
二人の写真だったはずなのに、リクがいなくて。
家族写真にもリクだけがいなくて……
違和感もなくって……
本当にリクが存在していたのか、それすら分からなくなる写真だった。
──震える手で……引き出しを閉めて。
鍵を掛けた。


「リク──」


恐怖に布団を頭から被って、身体を丸める。
リクは存在してたんだよね?
夢なんかじゃ……夢であってほしい。
現実で……夢で……
──現実?
──夢……?

……リクの事が好きなこの気持ちは……想いは本物だよ──ね?

──本物?
──ホンモノ……ホンモノって何……?
…………分からない。
……分かりたくない……分からない……
──ワカラナイ……


「……分から……ない……」


張り詰めた糸が……プツン、と切れた気がした──



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