Prologue Ⅲ
むかし、昔──
フランチェルペ王国という国の外れに一人の人形師が住んでいました。
彼はとても貧乏でしたが、優しく穏やかで人形を作ることが大好きでした。
……人形を心から愛していたのです。
彼は幼い頃から貧乏を理由に虐められ、人を避けるように生きてきました。
それはこの国に移住してからも同じでした。
ただ、ひたすら人形作りに没頭していました。
人形師の名前は……Airice・lie(アイリス・リー)──
そんなある日、彼を訪ねて一人の女性がやって来ました。
その女性はとても美しかった。
アイリスも一瞬、目を奪われた程だ。
彼女は言いました。
「素敵な人形ね。どれも個性があって素敵だわ」
人形の事を誉められたのは初めてでした。
戸惑うアイリスに彼女は言いました。
「また来てもいいかしら」
アイリスは小さく頷きました。
この日、アイリスの恋が始まったのです。
──彼女の名前はアリシア・スゥ。
二人には共通する事があった。
愛称が“アリス”だという事である──
アリシアは毎日のようにお弁当を持って、人形を見にやってきた。
彼女を避けていたアイリスも次第に心を開いていった。
人形作りの合間にアリシアと過ごす時間もあった。
それはとても心地の良い穏やかな時だった。
──アリシアの存在が、人形作りにも生活にも大きな変化を与えた。
アイリスは家の外に出るようになった。
街の人を避けることもなくなり、誰とも打ち解け、彼の家には様々な人が訪れるようになった。
そんなある日──
アリシアが言った。
「私の為に人形を作ってほしいの」
アイリスは迷う事なく頷きました。
彼はアリシアに恋をしていた。
来る日も来る日も、アイリスはアリシアを想って人形を作った。
人形の完成と共にアリシアへの想いも強くなっていく……
──人形は完成した。
しかし、アイリスの想いがあまりに強すぎて人形は強力な魂を宿してしまっていたのです。
それを彼は気付いていなかった──
アイリスは考えた。
人形と共に思いを伝えよう……と。
人形を受け取ったアリシアはとても喜んでくれました。
だが、喋る人形は彼女を恐怖のどん底へと突き落としてしまったのです。
アリシアには人形の穏やかな表情でさえ不気味にしか見えなくなっていた。
この事がたちまち街から国中に広がり、アイリスは“悪魔”と呼ばれるようになった。
ついには買い物どころか家の外に出る事も許されなくなりました。
すっかり痩せ細り、今にも力尽きそうなアイリスの目に入ったのは……
アリシアの為に作った人形。
彼は人形を思い、人を恨み憎んで永い眠りにつきました。
そして数日後──
誰かの手によって、アイリスの存在は家ごと消されたのです。
.