Doll 26-Missing
「……ん?」
一瞬、何かを気にする素振りを見せたArice・Doll。
「まあ、いい。大したことじゃあない……して、アリス。絶望したか? 」
「ぜつ……ぼ……う……?」
頭の中が真っ白で……何も入ってこない。
──違う。
もう……何でもいいんだ。
「でも……まだまだ足りないみたいだね。僕もまだ足りない。まだまだ、まだまだまだまだまだ……ね」
Arice・Dollが冷ややかに言った。
この人が何を言っているのか……よく分からない。
──そういえば、この人は……誰だっけ?
「てッめェ!!」
ハルクがフラップを思い切り蹴飛ばし、アリスの前に出る。
フラップは笑顔を浮かべながら宙に舞っているのを彼は知らない。
「どういうつもりだ、Arice・Doll!」
「誕生日は盛大に祝いたいではないか。蝋燭の炎の代わりに真っ赤な血。吹き消すは不要な存在」
「あいつが不要だって?」
「気に入らないか。ならば言い方を変える」
Arice・Dollはアリスを見て続ける。
「前菜を喰らった、というところか」
そう言って、身体についた血を拭い……舐めた。
「俺のことも忘れんじゃねーよ」
言葉とは裏腹にリゼルの拳からは汗が滴り落ち、足は震えていた。
……無理もない。
Arice・Dollのあまりの残虐さに、彼は今まで金縛り状態にあったのだから──
「見て御覧。アリスを」
Arice・Dollは不適に笑う。
「……眼中にないってか……」
アリスとリゼルの前に立ち、ハルクが言う。
「あいつを絶望させて、満足か?」
「あぁ。殻になればなるだけ手に入れやすいからね」
「手に入れる、だと?」
「そうだよ。彼女は僕のモノなんだから」
「……どういう意味だ」
ハルクの言葉にArice・Dollは薄ら笑いを浮かべる。
「君には関係ない事だ」
と、ハルクを一撃で床に沈めた。
音もなく静かな重い一撃──
「な──ッ」
「殺るのか?」
Arice・Dollはリゼルの耳元で呟いた。
再びリゼルは金縛り状態になる──
「そうだ。大人しくしていれば、今はまだ……生かしておいてやろう」
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