Prologue




「ただいま!」
「おかえり、アリスちゃん」
「ママ、リクはもう帰ってきてる?」
「部屋で勉強してんのよ」
「うわ……相変わらずマジメだな~」
「男なんだから、たくましく生きてほしいのに」
「あははは~」


ママの名前は、ナクル。
パワフルで時に大胆な看護師さん。
今は、臨時で働いている。
そんなママの趣味は剣道。
四年前にパパと再婚した。


「リク、いる?」


私はリクの部屋のドアを叩く。


「入っていいよ」


私は、ドアを開けた。

綺麗に片付けられている部屋。
より静けさを感じたいのか、まだ夕方の5時だというのにカーテンは閉まっている。
リクは机で本を読んでいた。


私はリクを見るなり、リクの背中に抱き付いた。


「リク、ただいま!」


そう、私はリクが好き。
リクはママの連れ子で私の一つ下。
中学三年生。
ショートで控えめな黒髪。
黒縁眼鏡がよく似合っている。


「おかえり、姉さん」


リクは読んでいた本を閉じて私を見た。


「姉さん。一緒に勉強やる?」
「うん!」


リクは頭がいい分、運動が大の苦手。
どちらかといえば、私とは正反対。
……私も運動は苦手だけど。

勉強は、リクと一緒にいたい口実だったりする。


「姉さん、全問正解だよ」


リクは嬉しそうに微笑んで私を見た。


「えっへへ。リクのおかげだよ」


お世辞なんかじゃなくて、本当にそう思ってる。
私は、リクの笑顔が大好きなんだ。


「そういえば、さっきなに読んでたの?」
「フランチェルペって国の人形師の本」
「フランチェルペ?」
「架空の国なんだけど、僕は実際にあったと思う」
「どうして、そう思うの?」
「人形師である、アイリス・リーの想いが嫌ってほど伝わってくるんだ」



そう語るリクの目はどこか寂しそうだった。


「アイリス・リーって、どんな人なの?」
「……寂しい人だよ」
「寂しい……人?」


リクが何かを言おうとしたその時、隙間風でカーテンが揺れ動いた。


「!」


カーテンの隙間……
つまり窓の外に誰かの視線を感じた気がした。


「誰……?」
「姉さん、どうしたの?」
「窓の外に誰かが……」


動揺する私にリクは安心させるように頭にポンと手をおいて、窓の外を見てくれた。


「誰もいない。気のせいじゃないかな?」
「…………うん」


リクの言うとおり、気のせいだと言い聞かせた。



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