Doll 25-Sibling
「ねえ、誰かと待ち合わせ?」
カラリナが店の前で待つ、ハルクに声を掛ける。
──が、ハルクは微動だにしない。
「聞いてる? あなたよ、あなた」
「オレに何か?」
カラリナがグッと距離を詰める。
「……やめてくれ。オレにその気はない」
軽く、手を振り払いハルクは続ける。
「ナンパなら他所でやってくれ」
「私のキス、凄いのよ。味わってからでも遅くないわよ」
カラリナは口紅を塗り直しながら言った。
「聞いてたのか? その気はねェって言っただろ」
「……アイツといい、何で私の魅力を味わおうとしないのよ……」
「第一印象に魅力ねェんだよ」
「は?」
「男が皆、自分に好意あるって態度。それが先ず、気に入らねェの」
「なっ……今まで手に入らなかったことなんて……い、一度しかなかったのに……」
カラリナは膝を着いて項垂れる。
その時、アリスが店から出てきた。
「やっとか」
「あ、ハルク。一緒に帰るんだ……」
「まあな。嫌な予感もするしな」
ハルクは横目でカラリナを見ながら呟いた。
「何か言っ──」
「腹減ったって言っただけ」
「だよね。私も」
そう言って、アリスは鞄からシュークリームを出した。
「買っちゃった」
そう言って、笑顔でシュークリームを差し出すアリス。
「サ、サンキュ」
ハルクは視線を逸らして、シュークリームを受け取る。
「見てみて! ほら、中にサンタがいるの」
無邪気に話す、アリス。
「……こんな顔もすんだな」
「ん?」
「何か、今日のお前……別人みたいだなって」
「……色々、吹っ切れたの」
「そうか」
「今日はいい日だなって、初めて思えた」
「ん。美味いな」
ハルクは、早くなる鼓動を誤魔化すように一気に食べて言った。
「ちょっとくらい味わって食べてよ」
「ご馳走様」
「あと、これね……クリスマスプレゼント」
そう言って、細長い小箱をハルクに渡す。
「オレに、か?」
「他に誰がいるのよ」
「いるだろ、家に」
「リク? リクには別に用意してるよ」
「……開けていいか?」
「うん」
「十字架(クロス)──……」
中には小さな十字架の付いたシャープペンが入っていた。
「で、何でペンなんだよ」
「授業、サボらないように」
「余計なお世話だっての」
ハルクは乱暴に小箱をポケットに突っ込む。
「とりあえず、受け取っといてやるよ。あと……コレはオレから」
ハルクはラッピングされた小袋をアリスに投げ渡した。
「あ、ありがとう……開けていい?」
「好きにしろよ」
アリスが袋を開けると、蝶の髪留めが入っていた。
「あいつ……リンネの事、覚えててやってくれ」
「……ありがとう」
ぎゅっと髪留めを抱き締める。
ハルクは一瞬、微笑んで姿を消した。
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